ゴブリン・バレー州立公園|1億数千万年前の海辺が「小鬼の谷」になった理由
アメリカ西部、ユタ州の乾燥した大地に、奇妙な岩が集まる谷がある。
丸い頭を載せた細い胴体。地面から突き出たキノコのような姿。隣同士で寄り添うものもあれば、今にも歩き出しそうに見えるものもある。人工の彫刻ではない。砂岩やシルト岩などを含む地層が、長い風化と侵食によって削り分けられた結果だ。
ここはゴブリン・バレー州立公園(Goblin Valley State Park)。「ゴブリン」と呼ばれる無数の奇岩が並ぶ場所である。
だが、この景観の出発点は奇岩とは似ても似つかない。およそ1億6000万~1億7000万年前の海辺に積もった砂や泥だった。いったい何が、平らな堆積物を「小鬼」の姿に変えたのだろうか。

写真:Goblin Valley State Park – aerial view of hoodoos 2023-09-28.jpg/作者:Schwerdf/ライセンス:CC BY 4.0
小鬼の正体は、太古の海辺にあった
現在のゴブリン・バレーは、ユタ州中東部のサン・ラファエル・スウェル(San Rafael Swell)南端付近にある。乾燥した谷に立つ岩の多くは、地質学で**フードゥー(hoodoo)**と呼ばれる侵食地形の一種だ。
ゴブリンを形作る主な地層は、**エントラーダ砂岩(Entrada Sandstone)**である。ユタ州地質調査所(Utah Geological Survey)の説明によると、その材料はジュラ紀、海に近い干潟や沿岸の砂丘などの環境で堆積した。砂だけではなく、細かなシルトや泥も重なり、長い年月のうちに岩石へと固まっていった。
堆積年代について、州の資料には約1億6000万年前とするものと、約1億7000万年前とするものがある。ここでは幅を持たせて、約1億6000万~1億7000万年前と考えておこう。
重要なのは、当時の砂や泥が最初からゴブリンの形をしていたわけではないということだ。むしろ、その後に地層が地表へ現れ、少しずつ削られることで、あの姿が生まれた。
なぜ岩に「頭」と「胴体」ができたのか
ゴブリンの形を理解する鍵は、岩石が一様に削られないことにある。
砂岩の層と、その間に挟まるシルト岩や頁岩などの層では、風化や侵食への抵抗力が違う。相対的に軟らかい部分が先に失われ、硬い部分が残ると、頭が大きく胴体が細い岩塔ができやすい。ユタ州地質調査所は、抵抗力のある砂岩塊が、下にある比較的軟らかいシルト岩や頁岩の上に残る仕組みを説明している。

写真:Goblin Valley SP in UT – 51830323432.jpg/作者:Jeff Hollett/ライセンス:CC0 1.0
しかし、硬軟の差だけでは、谷いっぱいに独立した岩が立つ理由を説明しきれない。
岩の内部には、地層の重なりを示す水平の境界だけでなく、縦方向に延びる割れ目もある。こうした弱い部分に沿って風化と侵食が進み、ひとかたまりだった岩盤は徐々に分かれていく。角や縁は平らな面より影響を受けやすく、しだいに丸みを帯びる。
さらに乾燥地とはいえ、雨が降らないわけではない。降雨による流出水は土砂を運び、凍結作用や塩の結晶化も岩を傷める。風で運ばれる細かな粒子による摩耗も形を整えていく。
こうして、割れ目で分かれ、軟らかい部分が先に減り、角が丸くなった岩が、ゴブリンらしい姿へ変わっていく。「風が彫った石像」という一言では片づけられない、いくつもの作用の積み重ねなのである。
地下の地層が、奇岩の谷になるまで
では、かつて海辺に堆積した地層は、どうやって現在の地表へ姿を現したのか。
公園が位置するサン・ラファエル・スウェルは、地層が大きく盛り上がった**背斜(anticline)**と呼ばれる構造をもつ地域である。ユタ州立公園局(Utah State Parks)の資料では、この隆起はおよそ7000万~4000万年前に起きたと説明されている。その後、長い侵食の歴史を経て、かつて地下にあった岩石が地表に露出した。
谷の周辺に見える崖には、異なる時代・環境で積もった岩石が層として現れている。ゴブリンは、そうした広い地質史のなかで、侵食のされ方の違いが生み出した独特の形だ。
興味深いのは、ゴブリンの姿が完成品ではないことだ。今日も岩は風化し、あるものは細くなり、あるものは崩れ、別の場所では新たな形が露わになる。州立公園の資料は、谷の外側にある赤い崖も同じ過程を受けており、今後数百万年かけてゴブリンの景観が広がっていくと説明している。
同じエントラーダ砂岩は、ユタ州の別の場所ではアーチや岩の壁、尖塔を形作る。岩石が同じでも、割れ目の入り方、層の性質、侵食の進み方が違えば、最終的に見える地形も異なる。
ゴブリン・バレーの異様さは、珍しい材質の岩が存在することではなく、ありふれた地質作用が、ここで独特の条件のもとに重なったことにある。
「マッシュルーム・バレー」と呼ばれた頃
この谷には、人間の目から見たもうひとつの歴史がある。
ユタ州立公園局の公式史によると、1920年代後半、ハイト・フェリー(Hite Ferry)を運営していたアーサー・チャフィン(Arthur Chaffin)と同行者たちは、別の通行ルートを探す途中で奇岩の谷を見渡した。チャフィンは1949年に再訪し、数日をかけて谷を歩き、写真を撮影した。当時、彼が使っていた呼び名は**「マッシュルーム・バレー(Mushroom Valley)」**だった。
確かに、丸い頭を載せた岩を見れば「キノコの谷」と名づけたくなる。一方、現在の「ゴブリン」という呼び名は、同じ姿に小鬼や怪物を見いだしたものだ。地形は変わらなくても、何に似ていると感じるかで、その場所の印象は変わる。
ただし、チャフィンらをこの土地の「最初の発見者」と書くのは正確ではない。周辺のサン・ラファエル・スウェルには、ヨーロッパ系の西部進出よりはるか以前から先住民文化の長い歴史があり、岩絵や土器などの文化遺産が残る。20世紀の訪問記録と、地域の長い人類史は区別する必要がある。
ゴブリン・バレーが正式にユタ州の州立公園となったのは1964年。風変わりな岩石群は、保護されるべき自然景観として扱われるようになった。
形づくるには長い時間、壊すには一瞬
岩は自然の作用で削られる。それなら、人間が崩しても同じことなのだろうか。
決定的に違うのは時間の尺度である。地層が形成され、隆起し、侵食を受けて、今見えるような形になるまでには途方もない時間がかかっている。一方、人が岩を押し倒せば、その姿は一瞬で失われる。
実際、2013年には公園内のゴブリンが人為的に倒される事件が起きた。ユタ州地質調査所は、この事件を地質景観の人為的破壊を意味する「ジオバンダリズム(geovandalism)」の代表例のひとつとして取り上げている。
奇岩は巨大な岩の塊に見えても、細くなった部分は脆い。保護する理由は、その形が珍しいからだけではない。同じものを人間が作り直すことも、失われた地質史を巻き戻すこともできないからだ。
公園には現在、ゴブリンが密集する「バレー・オブ・ザ・ゴブリンズ(Valley of the Goblins)」と呼ばれる約3平方マイルの自由散策区域がある。岩の間を歩けることはこの公園の大きな特徴だが、脆いゴブリンには登らず、岩を傷つけたり壊したりしないことが重要である。乾燥地の植物や生物土壌も傷つきやすいため、周囲の地表にも配慮が必要だ。
谷の時間は、今も止まっていない
ゴブリン・バレーは、2016年に**国際ダークスカイ・パーク(International Dark Sky Park)**としても認定された。ダークスカイ・インターナショナル(DarkSky International)の2026年更新ページでも、現在の認定地として掲載されている。

写真:Goblin Valley State Park (Unsplash).jpg/作者:Patrick Hendry/ライセンス:CC0 1.0
都市の明かりから離れたこの場所では、奇岩だけでなく夜空の暗さも守る対象になっている。認定にあたっては、空が暗いことだけでなく、公園照明の改善や夜空保全の教育活動も求められた。
地上には、ジュラ紀に積もった堆積物が変化した岩。頭上には、人の手で明るくしすぎないよう守られる夜空。どちらも、短い観光の時間とは異なる尺度を感じさせる風景だ。
小鬼のように見える岩は、何者かが彫った像ではない。砂と泥が岩になり、地層が持ち上がり、割れ目に沿って少しずつ削られた結果、たまたま人の想像力に触れる形が残った。
そして、今日のゴブリンも永遠には同じ姿でいられない。 あの奇妙な谷は、完成した博物館ではなく、今も書き換えられている地球の地質史の一場面なのである。
参考資料・出典
- Utah State Parks — Goblin Valley State Park
- Utah State Parks — History
- Utah State Parks — Hiking and Rappelling
- Utah State Parks — Goblin Valley State Park Brochure(2024 PDF)
- Utah Geological Survey — POTD February 21, 2017: Goblin Valley State Park
- Utah Geological Survey — POTD September 4, 2013: Goblin Valley State Park
- Utah Geological Survey — GeoSights: Little Egypt Geologic Site
- Utah Geological Survey — GeoSights: Lower Cathedral Valley, Capitol Reef National Park
- Utah Geological Survey — Glad You Asked: What is Geovandalism?
- Bureau of Land Management — San Rafael Swell Recreation Area
- DarkSky International — Goblin Valley State Park
- DarkSky International — Second Utah State Park Named IDA Dark Sky Park





