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色を失い、戻したピンクの湖|セネガル・ラック・ローズの謎

色を取り戻したピンクの湖 奇妙な島・海・湖

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色を失い、戻したピンクの湖――セネガルのラック・ローズ/レトバ湖

セネガル(Senegal)の首都ダカール(Dakar)から北東へ数十キロ。大西洋沿岸の砂丘の内側に、ラック・ローズ(Lac Rose)と呼ばれる湖がある。フランス語で「ピンクの湖」を意味する名前のとおり、条件がそろうと水面は淡い桃色から赤紫色を帯びる。

けれども、この湖を面白くしているのは、珍しい色そのものではない。

2026年5月に上空から撮影されたセネガルのラック・ローズ(レトバ湖)
2026年5月に撮影されたラック・ローズ。湖面の色は季節・日射・水量によって変化する。
写真:Lac Rose Sénégal 11.jpg/作者:Issiaga0/ライセンス:CC BY-SA 4.0

2022年、大雨と洪水によって大量の淡水が流れ込むと、湖は長く知られてきたピンク色をほとんど失った。水位が上がり、塩分が薄まり、湖底から塩を採る仕事も大きな打撃を受けた。それから数年、地域の人びとは余分な水を排出し、湖は再び高い塩分を保ちやすい状態へ向かった。2025年には色の回復が報告され、2026年には塩採取の再開も伝えられた。

つまり、ピンク色は単なる観光名物ではない。湖の水量、塩分、日射、微生物の状態がつり合っているときに現れる、環境の変化を目で見せる色でもある。

海だった場所が、塩の湖になるまで

ラック・ローズは、レトバ湖(Lac Retba)とも呼ばれる。湖はダカールの北東およそ35〜40キロ、大西洋とは砂丘帯を隔てた場所に横たわっている。

ラック・ローズはダカール北東、大西洋沿岸の砂丘帯の内側に位置する。マーカーは湖を示す代表地点。

現在は海から切り離された湖に見えるが、もともとは大西洋につながる沿岸ラグーンだった。この一帯では海面の変化や沿岸を移動する砂によって砂州・砂丘が発達し、海との通路がしだいに狭まった。セネガル政府の資料では、15〜16世紀ごろに砂丘帯によってラグーンが閉じられたとされている。

ただし、そこで海の影響が完全に途絶えたわけではない。堆積物や微化石の研究からは、その後にも海水が入り込んだ時期があったことが示されている。また、水理地質学的な研究では、砂丘の地下を通る水を介して海側から塩分が供給される仕組みも示されている。

地表では海から隔てられ、強い日差しの下で水が蒸発する。水だけが減れば、溶けていた塩は残る。こうして小さな沿岸湖は、普通の湖とはまるで違う高塩分の環境へ変わっていった。

国連教育科学文化機関(UNESCO)の資料では、2000年代の湖面積は約3平方キロメートル、最大水深は約3メートルとされている。ただし、水位や面積は降雨などで変動するため、現在も常に同じ大きさという意味ではない。湖は2005年から世界遺産の暫定一覧に掲載されているが、正式な世界遺産登録地ではない。

なぜ水がピンク色になるのか

「塩が多いから、水そのものがピンクになる」と考えたくなるが、塩そのものに水を桃色へ染める作用があるわけではない。

色の主要な要因と考えられているのは、ドナリエラ・サリナ(Dunaliella salina)という単細胞の緑藻である。高い塩分と強い光にさらされると、この藻は細胞内にβ-カロテンなどの赤橙色のカロテノイドを多く蓄える。それが湖全体の見え方に影響し、条件によって水面が桃色から赤紫色を帯びる。

湖では、強い塩分に適応した好塩性の古細菌も確認されている。ただし、それぞれの微生物が湖の色にどの程度寄与しているかが、明確な割合まで示されているわけではない。現時点では、ドナリエラ・サリナの色素を主要因としつつ、ほかの好塩性微生物も関与しうる、と見るのが妥当だ。

もう一つ大切なのは、この色が一年中固定されているわけではないことだ。

乾燥して水の蒸発が進めば塩分は上がりやすく、強い日射も加わる。一方、雨が増えて淡水が入り込めば塩分は下がる。空の状態や光の当たり方によっても、人の目に見える色合いは変わる。

ラック・ローズの「ピンク」は、湖に塗られた色ではない。その時々の環境条件が水面に表れたものなのである。

湖底の塩が、人びとの仕事になる

この高い塩分は、不思議な景観だけでなく地域の産業も生み出した。

湖底には塩の層や塩殻が形成され、人びとはそれを棒などで砕き、シャベルですくって小舟に積む。岸へ運ばれた塩は乾燥・選別され、食用や魚の保存などに使われ、周辺国にも流通してきた。

セネガルのラック・ローズ湖内で塩を採取する作業者
湖内で塩を採取する作業者(2016年撮影)。2022年洪水後の再開を撮影した写真ではない。
写真:Lake Retba (Lac Rose), worker is digging the salt in the lake.jpg/作者:林戈亮/ライセンス:CC BY-SA 4.0

国連食糧農業機関(FAO)の2017年資料には、1隻の舟でおよそ1〜1.5トンの塩を運ぶ例が記録されている。非常に濃い塩水から肌を守るため、採取者が体にシアバターを塗ることでも知られる。

塩分濃度は、ひとつの数字で表せるほど一定ではない。2022年の研究では1リットル当たり80〜350グラムという幅が示され、政府資料には過去に最大463グラムに達しうるとの記載もある。

ここでも重要なのは、極端に塩辛いことより、その状態が変わり続けることだ。

塩分が十分に高ければ、ピンク色に関わる微生物が生きやすくなり、塩も析出しやすい。ところが淡水が増えすぎれば、その両方が崩れる。

2022年の洪水は、その弱点をはっきり見せた。

2022年、湖からピンク色が消えた

2022年、ダカール周辺は激しい雨と洪水に見舞われた。

米航空宇宙局(NASA)が公開した衛星画像では、同年5月にはピンク色だった湖が、9月には青緑色に近い姿へ変わっている。大量の淡水が流れ込み、水位が上がり、塩分が大きく薄まったためだった。

変わったのは景色だけではない。

塩分が下がれば、ドナリエラ・サリナが増えやすい高塩分環境が崩れ、特徴的な色は弱まる。同時に湖底で塩が析出しにくくなり、塩採取も難しくなる。岸に積み上げられていた塩が洪水で流された場所もあった。

観光客の減少に加え、塩の採取、運搬、販売、飲食など、湖の周辺で成り立っていた仕事にも影響が広がった。

ピンク色が消えたという出来事は、単に「名物の景色が見られなくなった」という話ではなかった。湖の化学的な条件が変わり、その変化が地域の暮らしにまで届いたのである。

人びとは湖の水を外へ出した

その後、地域の人びとは湖に入りすぎた水を減らすために動いた。

2026年のロイター(Reuters)の現地取材によると、塩業、観光、商業などに関わる地域団体は、余分な水を海側へ排出する取り組みを続けた。地域側は約2,300万CFAフランを集め、約600メートルの配管を設置し、およそ100人のボランティアが設置や運転、監視に参加した。その後は地方当局も大型ポンプや電力供給で支援したという。

過剰な水を排出することで、洪水後に大きく上がった水位を下げ、蒸発などによって湖が再び高塩分の状態へ戻りやすい条件が整えられた。2025年にはピンク色の回復が報告され、2026年には色の回復と塩採取の再開が伝えられた。

ただし、「元に戻った」と単純に言い切ることはできない。

そもそも湖の色は、季節、日射、降雨、水量、塩分によって変動する。「ピンク色が戻った」というのは、一年中いつでも同じ鮮烈な色になった、という意味ではない。

また、雨が多すぎれば再び淡水化する可能性がある一方、水が減りすぎれば湖面の縮小や堆積による埋没が問題になる。ラック・ローズは、乾けばよい湖でも、満水ならよい湖でもない。ごく限られた範囲の水と塩のバランスに支えられている。

回復した湖の隣で始まった大規模開発

湖が色を取り戻しつつあった2026年、周辺では別の大きな変化も始まった。

「ラック・ローズ緑の都市(Ville Verte Lac Rose)」計画と呼ばれる都市開発である。2026年5月には起工式が行われ、住宅や公共施設などを含む新たな都市開発として計画が進められている。

一方で、地域住民や環境関係者からは、湖を囲む砂丘やモクマオウの防風林が改変されれば、水の流れや景観、生態系に影響が及ぶのではないかという懸念も出ている。

この開発が湖にどのような長期的影響を与えるかは、まだ確定していない。現時点で「湖を破壊する」と断定することも、「問題はない」と言い切ることもできない。

ただし、2022年の洪水で分かったことがある。ラック・ローズは、周囲から流れ込む水の量が変わるだけで、色も塩分も産業も大きく変わるほど敏感な湖だということだ。

そのすぐそばで土地利用が大きく変わるなら、湖へ入る水と湖から出る水をどう保つかは、景観だけでなく塩業や地域の暮らしにも関わる問題になる。

ピンク色は、この湖の状態を映している

ラック・ローズは「ピンク色の湖」として知られてきた。だが、なぜその色が生まれ、なぜ消え、なぜ戻ったのかを追うと、見えてくるのは一枚の珍しい風景ではない。

海から切り離された沿岸ラグーン。砂丘の地下を通じて届く塩分。太陽による蒸発。高塩分に適応した微生物。湖底から塩を採る人びと。そして、その均衡を大きく崩した豪雨。

それらの条件が重なった結果として、湖はピンク色を見せる。

2022年に色が消えたのは、湖のバランスが大きく崩れたからだった。数年後に再びピンク色が現れたのは、人びとの排水作業も加わり、湖が再び高塩分を保てる状態へ近づいたからである。

だから、この湖の色は飾りではない。

ピンクが濃いか、薄いか。あるいは消えてしまうか。その変化自体が、レトバ湖の水と塩のバランスが今どこにあるのかを教えている。

参考資料・出典

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