ラグナ・コロラダ――標高4300mに広がる「赤い湖」は、なぜ赤いのか
ボリビア(Bolivia)南西部の高地に、赤褐色の水面をもつ浅い湖がある。ラグナ・コロラダ(Laguna Colorada)だ。
写真だけを見ると、赤い鉱物や泥が湖を染めているようにも見える。しかし、この湖の色を理解するうえで重要なのは、むしろ「生き物」である。高塩分と強い紫外線、火山・熱水活動の影響を受ける厳しい環境の中で生きる微細藻類や光合成微生物が、強い赤褐色に大きく関わっている。
しかもラグナ・コロラダは、いつも同じ赤色をしているわけではない。条件によっては緑がかった相を見せることさえある。
この湖は、単なる「赤い絶景」ではない。極限環境の微生物とフラミンゴが同じ水環境によって結びつく、生物の湖でもある。

写真:Laguna Colorada panorama.jpg/作者:Edouard Wautier/ライセンス:CC BY-SA 3.0
標高約4300m、数十センチの水が広がる湖
ラグナ・コロラダがあるのは、アンデス山脈(Cordillera de los Andes)の高原地帯アルティプラノ(Altiplano)の南部。ボリビアのポトシ県(Departamento de Potosí)、チリ(Chile)国境に近い乾燥地帯である。
標高はおよそ4300m。湖面積は資料によって約52~60平方キロメートルとされるが、水位は季節や年によって変動する。さらに特徴的なのが、その浅さだ。近年の研究では平均水深がおよそ35センチとされ、過去の研究でも数十センチ程度の浅い湖として記録されている。
つまり、巨大な水塊がたまっているわけではない。広い高原のくぼみに、ごく薄い水の層が広がっているような湖なのである。
この地域は非常に乾燥している。水は海へ流れ出さず、内陸の低地や湖に集まり、強い蒸発によって塩分やさまざまな溶存成分が濃縮されていく。周囲には火山や溶岩、火砕流堆積物なども広がり、南西ボリビア特有の火山性高地景観を形づくっている。
ただし、ラグナ・コロラダそのものを「火口湖」と呼ぶ根拠は確認されていない。火山地帯にある湖であることと、火口にできた湖であることは別である。
赤い色の正体には「生命」が深く関わる
ラグナ・コロラダの赤色は、しばしば「鉱物や赤い堆積物によるもの」と説明される。
湖底や湖岸にさまざまな鉱物質の堆積物が存在すること自体は間違いではない。古い生態研究でも、赤みを帯びた微細な堆積物と藻類の両方が湖の色に関係すると説明されている。
一方、近年の科学資料は、生物由来の寄与をよりはっきり示している。アメリカ航空宇宙局(National Aeronautics and Space Administration、NASA)は、湖の強い赤褐色を塩水中で繁殖する藻類に由来すると説明している。2026年に発表された中央乾燥アンデスの塩湖群に関する微生物研究でも、ラグナ・コロラダの赤色は高密度の色素性プランクトンや光合成微生物によって生じると記載されている。
湖で確認されている藻類の一つが、ドナリエラ・サリナ(Dunaliella salina)である。高塩分環境に適応した微細藻類として知られる生物だ。
したがって、湖の赤色を「赤い土が溶けた色」だけで説明するのは不十分である。堆積物を含む湖の物理化学条件と、そこに適応した生物群集の活動が重なって現れる色と考えるのが妥当だ。
赤い湖が緑になることもある
さらに不思議なのは、湖が必ずしも赤いままではないことである。
アメリカ航空宇宙局の解説では、ラグナ・コロラダがときに緑色の相を示すことがある。塩分や水温が変わると、その時点で優勢になる藻類も変わり、見える色にも違いが出ると説明されている。
そのため、「赤い湖」という名前から想像するほど単純ではない。
湖の色は、固定された岩石の色ではなく、変化する水環境と生物活動を反映している。ラグナ・コロラダの景観は、静止した色見本ではなく、その時々の湖の状態が表面に現れたものなのである。
ヒ素が多い。しかし、赤色の原因ではない
ラグナ・コロラダの水は、化学的にも極端である。
2024年に発表された研究では、ラグナ・コロラダを含む南西ボリビアの高地塩湖について、ヒ素、セレン、水銀などが分析された。ラグナ・コロラダの表層水からは高濃度のヒ素が測定され、無機ヒ素が優勢だった。
ここで注意したいのは、「だから湖が赤い」と結びつけないことだ。この研究は、ヒ素を湖の赤色の原因とはしていない。
むしろ注目すべきなのは、高塩分、高地の強い紫外線、火山・熱水活動の影響を受ける化学環境など、複数の厳しい条件が重なる場所にも、それに適応した微生物群集が成立していることである。
人間から見れば過酷な環境でも、そこに適応した生命にとっては生存可能な場所になりうる。
赤い水の上に集まる3種のフラミンゴ
その生態系を代表する大型動物が、フラミンゴである。
ラグナ・コロラダでは、ジェームズフラミンゴ(Phoenicoparrus jamesi)、アンデスフラミンゴ(Phoenicoparrus andinus)、チリーフラミンゴ(Phoenicopterus chilensis)の3種が確認されている。

写真:Laguna Colorada 09.jpg/作者:LBM1948/ライセンス:CC BY-SA 4.0
1975年から1997年までの長期記録を分析した研究では、夏季に3種の総数が4万羽を超えたことがあり、1987年1月にはジェームズフラミンゴだけで4万1050羽が記録された。
ただし、この数字は一年中続くものではない。冬には総数が1000羽を下回った調査例もあり、個体数は季節によって大きく変動する。
ここでも、湖は静止した風景ではない。
水の色も変わる。水位も塩分も変わる。フラミンゴの数も変わる。ラグナ・コロラダは、一枚の写真から受ける印象よりはるかに動的な場所なのである。
なぜ、こんな浅い湖がフラミンゴに重要なのか
水深が数十センチしかない湖に、なぜこれほど多くのフラミンゴが集まるのか。
ラグナ・コロラダでは、ドナリエラの仲間や珪藻類などの植物プランクトンが記録されている。また、南西ボリビアの塩湖では、底泥に生息する珪藻などの微小生物がフラミンゴの重要な餌資源になることが知られている。
過去のラグナ・コロラダの研究では、冬に湖面が凍結してプランクトンが減少すると、飛べる成鳥や若鳥が別の湿地へ移動すると考えられている。
つまり、浅い湖だから生物が乏しいのではない。塩分の高い環境に適応した小さな生物が生産され、それを利用する鳥が集まることで、独特の食物網が成り立っている。
湖を赤く見せる生物活動と、フラミンゴを支える餌環境は、完全に同じものではない。それでも、どちらもこの特殊な塩湖の条件から生まれている。
この湖を守るために保護区がつくられた
ラグナ・コロラダの重要性は、ボリビアでも早くから認識されていた。
1973年、湖とその周囲を守る目的で、エドゥアルド・アバロア・アンデス動物相国立保護区(Reserva Nacional de Fauna Andina “Eduardo Avaroa”)が設置された。当初の範囲は、ラグナ・コロラダとその周囲半径10キロメートルだった。
つまり、この湖は「巨大な保護区の中にたまたまある名所」ではない。保護区そのものが生まれた主要な理由の一つだった。
その後、保護範囲は大幅に拡張された。ボリビアの保護地域当局が公表した管理資料では、保護区の面積は71万4745ヘクタールとされている。また、2026年にも同保護区では国の保護地域として管理・生態モニタリングが続いている。
一つの湖から、巨大な湿地群の保全へ
ラグナ・コロラダは1990年、ラムサール条約(Ramsar Convention)に基づく国際的に重要な湿地として登録された。
さらに2009年、登録区域は大きく拡張され、名称もロス・リペス(Los Lípez)へ変更された。現在の登録面積は142万7717ヘクタールで、ラグナ・コロラダだけでなく、高地の塩湖、汽水湖、高地湿原、地熱湿地などを含む広大な湿地複合体として扱われている。
この変化は象徴的だ。
最初は一つの湖を中心とした登録地だった。しかし保全範囲が広がり、現在は複数の湖や湿地を含む地域全体が、一つの国際的重要湿地として扱われている。
ラグナ・コロラダは、孤立した奇景ではない。
周囲の塩湖や湿原を含む大きな生態系の一部なのである。
「異世界の湖」の正体
ラグナ・コロラダを奇妙に見せているのは、赤い水だけではない。
標高約4300m。極端な乾燥。浅い塩水。火山性の地質。高い紫外線。特殊な水の化学組成。そして、その条件に適応して生きる微生物や藻類。その湖を、季節によっては何万羽ものフラミンゴが利用する。
無機物だけでできた不毛な風景のように見えて、実際にはその異様な色に生物活動が深く関わっている。
しかも、その色は固定されていない。
赤くなり、条件によっては緑がかり、水位が変わり、鳥の数も変わる。
ラグナ・コロラダの面白さは、「赤い湖がある」という一点ではない。過酷な環境の中で、水の化学と微生物と鳥類が結びつき、絶えず姿を変える湖であることにある。
異世界のように見える景観の正体は、地球の極端な環境に適応した生命と、その生命を支える水と地質の相互作用なのである。
ラグナ・コロラダの位置
ラグナ・コロラダは、ボリビア南西部のチリ国境に近い高地にある。次の地図は湖内の代表地点を示しており、入口、駐車場、展望地点などを示すものではない。
参考資料・出典
- NASA Earth Observatory「Laguna Colorada」
- Environmental Microbiome (2026), “Microbial diversity, metabolic specialization, and genomic novelty across polyextreme saline lakes of the Central Dry Andes”
- Guédron et al. (2024), “Arsenic, selenium, and mercury speciation in hypersaline lakes of the Andean Altiplano”
- Rocha, “Population fluctuations in three flamingo species at the Laguna Colorada”
- First International Simultaneous Census of Phoenicoparrus jamesi and Phoenicoparrus andinus flamingos
- Ramsar Sites Information Service:Bolivia annotated list
- Ramsar「Los Lípez: extensión de sitio Ramsar altoandino en Bolivia」
- 旧Ramsar Information Sheet:Laguna Colorada(1998)
- SERNAP「Compendio Normativo Áreas Protegidas de Carácter Nacional」
- SERNAP「El SERNAP invita a las familias bolivianas a conectar con la naturaleza…」2026年4月2日
- SERNAP「Censo Nacional de la Vicuña 2026」
- Lunar and Planetary Institute「Dacite Domes and Ignimbrites, Sud Lipez, Bolivia」





