バングル・バングル山脈――黒とオレンジの蜂の巣は、なぜ生まれたのか
西オーストラリア州の内陸部に、巨大な蜂の巣を無数に並べたような山地がある。丸みを帯びた塔には黒とオレンジの縞が水平に走り、遠目には人工的に塗り分けられたようにさえ見える。
この奇妙な景観が、バングル・バングル山脈(Bungle Bungle Range)である。山脈はパヌルル国立公園(Purnululu National Park)の中心を占め、2003年にはユネスコ(UNESCO)の世界自然遺産に登録された。
だが、この場所の面白さは形の奇抜さだけではない。塔をつくる岩石は約3億5000万〜3億6000万年前に起源を持つ一方、現在の姿を大きく彫り出した地形形成は主に過去約2000万年に進んだ。そして、あの縞模様の一部は岩石そのものの色ではなく、現在も生きる微生物によってつくられている。
つまりバングル・バングルは、古代の岩石、長い侵食、季節的な水、鉄の酸化、そして生命が重なってできた風景なのである。

写真:The Bungle Bungle Ranges.jpg/作者:David Nicolson/ライセンス:CC BY-SA 4.0
蜂の巣のような山は、もともと砂と礫だった
バングル・バングル山脈を構成する主な岩石は、石英を多く含む砂岩と礫岩である。その材料となった砂や礫は、デボン紀のおよそ3億5000万〜3億6000万年前に堆積した。
その後、堆積物は厚く積み重なり、圧密・固結して砂岩や礫岩へと変わった。さらに地殻の隆起と長大な侵食が続き、かつて上に重なっていた岩石は次第に削り取られていった。
現在見られる塔や峡谷の形成で特に重要だったのは、比較的新しい地質時代である。ユネスコの説明では、過去約2000万年の隆起と侵食によって、古い砂岩の台地が河川や流水に切り込まれ、現在の円錐形・塔状の地形へと発達した。
ここで注意したいのは、「3億6000万年前に蜂の巣形の山ができた」わけではないことだ。岩石の材料は非常に古いが、私たちが目にする地形の輪郭は、それよりはるか後の侵食によって刻まれている。
石灰岩ではないのに「カルスト」と呼ばれる
バングル・バングルの地形は、しばしば塔状カルスト(tower karst)や砂岩カルストとして説明される。
カルストと聞くと、石灰岩が雨水や地下水に溶かされてできる洞窟や奇岩を思い浮かべることが多い。しかし、ここで主役となるのは石英質の砂岩だ。
なぜ砂岩でカルストのような地形ができるのか。
その答えは、単に「雨と風で削られた」では済まない。岩石に発達した割れ目に水が入り込み、溶解や化学的風化を進める。風化で弱くなった部分を流水が削り、谷壁を後退させる。さらに、砂岩内部の粒子の組み合わさり方や、層ごとの水分保持・乾燥特性の違いも侵食の進み方を左右する。
こうした作用が長期間積み重なり、台地は深く刻まれ、残された部分が丸みを帯びた塔へ変わっていった。
ただし、円錐形の砂岩塔がどのような過程の組み合わせで現在の形にまで発達したのかは、完全に解明されたわけではない。ユネスコも、その形成機構にはなお理解されていない部分があるとしている。
黒い縞は「生きている」
バングル・バングルを最も印象的にしているのが、塔の表面を何本も走る暗色とオレンジ色の縞である。
一見すると、色の異なる地層が交互に積み重なっているように見える。しかし実際には、縞の色は岩石表面の環境と深く関係している。
暗灰色から黒色の帯には、シアノバクテリア(cyanobacteria)を中心とする薄い生物皮膜が発達している。皮膜そのものはごく薄いが、表面の砂粒をまとめ、崩れやすい砂岩を安定させる役割を果たしていると考えられている。
しかも、この暗い帯はいつも同じ色に見えるわけではない。乾燥していると灰色がかって見えるが、水分を含むと黒色や暗緑色が強くなる。雨のあとに山の表情が変わって見えるのは、そのためである。
一方、オレンジ色の帯は鉄分の酸化による発色と関係している。比較的早く乾燥する部分ではシアノバクテリアが繁殖しにくく、酸化した鉄を含む岩肌が目立つ。
つまり、縞模様は単なる「岩の模様」ではない。どの層が水分を保ちやすいか、どこが早く乾くか、どこに微生物が定着できるかという条件が、岩石表面の色分けとして現れている。
3億年以上前の砂岩の表面で、現在も生きる微生物が暗色帯の形成や表面の安定化に関わっている。バングル・バングルの景観が特別なのは、地質と生物をきれいに分けて説明できないところにもある。
山脈は、ひとつの形だけではない
写真では丸いドーム群が有名だが、山脈全体が同じ姿をしているわけではない。
北東部や南西部では蜂の巣状の塔が目立つ一方、北西部には深い峡谷が発達し、西側には高い断崖が続く。内部では岩石の割れ目に沿って狭い峡谷が刻まれている。
代表的なエキドナ・キャズム(Echidna Chasm)は、切り立った壁が最大約200メートルに達し、狭い部分では幅が約1メートルしかないとされる。丸い塔の群れと、ほとんど裂け目のような峡谷が同じ山塊の中に共存しているのである。

写真:Bungle Bungle Range Purnululu National Park, Echidna Gorge.png/作者:Maclearite/ライセンス:CC BY-SA 4.0
これはバングル・バングルが、単なる「奇岩の集合」ではなく、ひとつの大きな砂岩台地がさまざまな方向から切り刻まれた地形であることを示している。
山脈の中央には「隕石跡かもしれない」円形構造がある
さらに奇妙な地形がある。山脈中央部のピカニニー円形構造(Piccaninny Circular Structure)である。
直径は約7〜7.5キロメートル。地質構造の折れ曲がりや断層の形から、かつて隕石衝突で生まれた構造ではないかと考えられてきた。
ただし、「巨大クレーターが残っている」と断定することはできない。衝突構造を確定するうえで重要な衝撃変成などの診断的証拠が、これまでの研究では十分に確認されていないからだ。
そのため現在は、衝突起源と整合する特徴を持ちながらも、決定打に欠ける構造として慎重に扱う必要がある。
蜂の巣状の塔だけでも十分に異様な山脈の内部に、さらに成因未確定の巨大な円形構造が隠れている。この点も、バングル・バングルが地形学的に一筋縄ではいかない場所であることを物語っている。
「1980年代まで知られていなかった」は正確ではない
バングル・バングルについては、「1980年代まで世界に知られていなかった秘境」と紹介されることがある。しかし、この表現は正確ではない。
東キンバリーでは、少なくとも約2万年前までさかのぼる先住民の居住・利用の証拠がある。現在、西オーストラリア州の公園管理当局は、ギジャ(Gija)とジャル(Jaru)の人びとをパヌルル国立公園の伝統的所有者として認めている。国立公園内や周辺にも、岩絵や手形、研磨痕など数多くの文化的痕跡が記録されている。
ヨーロッパ人による記録も19世紀には存在する。地質学者エドワード・ハードマン(Edward Hardman)は1885年、この地域の奇妙な地形について報告している。
では、なぜ「1980年代に発見された」という印象が残っているのか。
実際に大きく変わったのは、存在そのものが知られた時期ではなく、オーストラリア社会全体で広く知られるようになった時期である。1980年代初頭、航空写真やテレビ番組、印刷メディアによって特徴的な景観が全国に紹介され、一気に知名度が高まった。
その後、1987年にパヌルル国立公園が設置され、2003年には世界遺産に登録された。
古代から人びとの生活と文化に結びついてきた土地が、国全体の「名所」として認識されるようになったのはごく最近なのである。
世界遺産になった理由は、見た目の奇抜さだけではない
パヌルル国立公園は、2003年に世界自然遺産へ登録された。登録基準は、卓越した自然美を評価する基準と、地球史や地形形成過程の顕著な例を評価する基準である。
確かに、黒とオレンジの縞をまとった無数の塔は、それだけで強烈な景観をつくっている。しかし世界遺産として重要なのは、単に「変わった形だから」ではない。
非常に古い砂岩が、長期の隆起と侵食、水の作用、化学的風化、生物皮膜などの相互作用によって、世界でも特に顕著な砂岩の円錐カルストへと変化してきた。その過程自体が、地球表面がどのように形づくられるのかを示す重要な例なのである。
古い岩と、若い地形と、生きた縞模様
バングル・バングル山脈を一言で説明するなら、「3億年以上前の岩でできた蜂の巣状の山」となるかもしれない。
しかし、それだけではこの場所の本質を半分しか説明していない。
岩石は古い。だが現在の塔を大きく形づくった侵食は、それよりずっと後に進んだ。そして塔を特徴づける暗い縞には、今も生きるシアノバクテリアが関わっている。
古い岩石の上に、比較的新しい地形形成が重なり、その表面の色と安定性には現在の生物活動も関わっている。
バングル・バングルが奇妙に見えるのは、偶然変わった形をしているからではない。数億年という時間の中で、岩、水、気候、化学反応、生命が同じ場所に作用し続け、その結果が一枚の風景として露出しているからなのである。
参考資料・出典
- UNESCO World Heritage Centre: Purnululu National Park
- Australian Government, DCCEEW: Purnululu National Park
- Australian Government: Purnululu World Heritage Nomination
- Purnululu World Heritage Nomination PDF
- Western Australia DBCA: Purnululu National Park
- Western Australia DBCA: Purnululu National Park — Landscope
- Western Australia DBCA: Echidna
- R. W. Young, “Tower Karst in Sandstone: Bungle Bungle massif, northwestern Australia” (1986)
- P. W. Haines, “Impact cratering and distal ejecta: the Australian record” (2005)
- NASA Earth Observatory: Piccaninny Impact Structure, Western Australia
- Federal Court of Australia: Annual Report 2022–23





