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ザ・ウェーブはなぜ波に見える?石になった砂丘を風が削る

砂岩の波に刻まれた大地 奇妙な地形・地質

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ザ・ウェーブ――石になった砂丘を、いまも風が削り続ける

アメリカ南西部の乾燥地帯に、岩そのものが波打っているように見える場所がある。アリゾナ州北部、ユタ州境に近いコヨーテ・ビューツ北部(Coyote Buttes North)にあるザ・ウェーブ(The Wave)だ。

赤や橙、白の細い縞が、滑らかな凹面に沿って何重にも曲がり、まるで巨大な波がそのまま石になったように見える。だが、この景観を見て「水が長い時間をかけて削ったのだろう」と考えると、話はそれほど単純ではない。

ザ・ウェーブの母岩は、約1億9000万年前の巨大な砂丘地帯にたまった砂からできたナバホ砂岩(Navajo Sandstone)である。そして現在見られる大きな溝や細かな段差の彫刻には、砂を運ぶ風による磨耗が主要な役割を果たしているとする研究が強く支持されている。

つまり、この「石の波」は、古代の砂丘の内部構造を、現代の風が彫り出している場所なのである。

アリゾナ州のザ・ウェーブに広がる赤白の縞模様をもつ波状のナバホ砂岩地形
古代の砂丘が岩石化し、侵食によって縞模様と曲面が露出したザ・ウェーブ。
写真:Wave Panorama/作者:Matthew Alan Festa/ライセンス:CC BY-SA 4.0

波のような縞は、かつての砂丘の断面だった

ザ・ウェーブの縞模様は、水平に積み重なった普通の地層とは少し違う。

約1億9000万年前、この地域には巨大な砂丘が広がっていた。砂丘の斜面を雪崩のように流れ落ちた砂の層と、風成リップルによる細かな層が何度も重なっていった。その結果、砂丘の内部には傾いた層が幾重にも残った。これが斜交層理と呼ばれる構造である。

その後、砂は地下で圧密され、鉱物によって粒どうしが結びつき、砂岩になった。はるか後の時代に地表へ露出し、侵食されることで、かつて砂丘の内部に隠れていた傾いた層が姿を現した。

ザ・ウェーブで線が複雑にうねって見えるのは、地層そのものが後から液体のように曲がったからではない。もともと立体的だった砂丘内部の層を、曲面に沿って切り出した結果なのである。

ザ・ウェーブの滑らかな凹面を横切る赤と白の斜交層理の縞模様
曲面を横切る細い縞は、約1億9000万年前の砂丘内部にできた層が侵食によって現れたもの。
写真:Coyote Buttes a.k.a. The Wave, Vermillion Cliffs, Arizona/作者:Lobineau at Italian Wikipedia/ライセンス:CC BY 2.5

「水の渦」が削ったように見えて、主役は風だった

ザ・ウェーブの大きな凹地は、研究では全体として南北方向に約96メートルにわたり、二つの主要な溝状地形が交わる構造として記載されている。広い方のU字形の溝は最大幅約19メートルに達する。

これだけ滑らかな溝を見ると、洪水や長年の流水による侵食を連想しやすい。地形の形成過程については節理や過去の水の作用も考慮されているが、現在の彫刻作用を説明するうえで重要なのは風である。

2008年に発表された地質研究では、ザ・ウェーブの壁面に見られるセンチメートル規模の細かな段差の向きが、排水方向ではなく卓越風向と対応していることが示された。雨滴や流水では説明しにくい張り出しの下にも同じような侵食模様がある。

研究者たちが重視したのは、砂を運ぶ風による磨耗だった。ザ・ウェーブの狭まった地形は風を絞り込み、そこを通る砂粒が砂岩表面を繰り返し叩き、削る。見た目は水の流れのようでも、現在の地形形成では「砂を運ぶ空気の流れ」が大きな役割を果たしているのである。

しかも、ザ・ウェーブは完成した化石のような地形ではない。風食は現在も続いている。

赤と白の色は、砂が積もったときだけに決まったわけではない

ザ・ウェーブを印象的にしているのは、形だけではない。赤、橙、桃色、紫、黄、白といった複雑な色合いも、地形の輪郭を強調している。

この色を「赤い砂と白い砂が交互に積もった」とだけ説明すると不正確になる。国際地質科学連合(International Union of Geological Sciences: IUGS)や地質学の研究では、岩石化した後に地下水や流体が砂岩の中を移動し、鉄を含む鉱物が濃集したり取り除かれたりした続成作用が、現在の色彩に強く関わっているとされる。

赤や紫系の色にはヘマタイトなどの鉄酸化物が関係する。一方で、鉄が失われた部分は淡くなり、白っぽい帯として残ることがある。

ザ・ウェーブの模様は、砂丘ができた瞬間だけの記録ではない。砂が積もった時代、岩石へ変わった時代、地下水が通った時代、そして地表で風に削られている現在まで、異なる時代の出来事が一枚の岩肌に重なっている。

岩の表面では、微生物まで削れ方に関わる

さらに興味深いのは、砂岩表面のすぐ下に生息する光合成性の微生物が、侵食のされ方に関与している可能性である。

2008年の研究では、岩の表面直下に生きる内生微生物が関与してできる薄い皮膜と、風で飛ぶ砂粒による磨耗との相互作用が、壁面の小さな段差の形成に関係すると解釈されている。

巨大な景観をつくっているのは、単に「風が強いから」ではない。砂岩の硬さのわずかな違い、古代の堆積構造、表面近くの生物活動、そして風砂が組み合わさって、あの精密な波模様が刻まれている。

一度「恐竜の足跡」とされたものが、後に覆された

コヨーテ・ビューツ周辺では、地質学そのものが更新されていく興味深い例もある。

2008年、ナバホ砂岩上に密集する多数の凹みが、恐竜によって踏み荒らされた地表面だとする研究が発表された。大量の恐竜が行き交った「恐竜のダンスフロア」として話題になった場所である。

ところが2021年、同じ地点を再検討した研究チームは、その凹みを恐竜活動の直接的証拠ではなく、風化でできた穴を含む地表面と再解釈した。しかも再検討論文には、最初の解釈を発表した研究者も参加している。

これは、ザ・ウェーブ周辺の地質を語るうえで大切な話でもある。奇妙な地形ほど魅力的な物語が生まれやすいが、地質学では新しい観察によって解釈が変わる。面白い説明ほど、現在どこまで確かめられているかを区別する必要がある。

人気が高すぎるため、今は誰でも入れる場所ではない

ザ・ウェーブは、パリア・キャニオン=ヴァーミリオン・クリフス原生自然地域(Paria Canyon-Vermilion Cliffs Wilderness)とヴァーミリオン・クリフス国定記念物(Vermilion Cliffs National Monument)に位置し、米国土地管理局(Bureau of Land Management: BLM)が管理している。

現在、ザ・ウェーブを含むコヨーテ・ビューツ北部への入域は許可制で、1日最大64人または16グループのいずれか先に達した時点が上限となる。事前抽選には48人または12グループ、デイリー抽選には16人または4グループが割り当てられている。

この厳しい管理の背景には、景観の希少性だけでなく、脆い砂岩と原生自然環境を守る必要がある。米国土地管理局によると、旧制度だった2018年には年間7,300人分の許可枠に20万人を超える応募があり、許可を得られた割合は約3.6%だった。

現地には整備されたトレイルがなく、推奨される往復距離は約10.3キロメートル。夏は極端な暑さとなり、雨天時には鉄砲水や未舗装道路の通行不能も起こりうる。ザ・ウェーブは「珍しい景色を見に行く場所」である前に、厳しい砂漠環境の中にある原生自然地域でもある。

石の波は、一つの時代にできたものではない

ザ・ウェーブの不思議さは、形の奇抜さだけにあるのではない。

約1億9000万年前、風が巨大な砂丘をつくった。砂丘内部には斜めの層が刻まれ、それが砂岩になった。地下を流れた水や流体は鉄を移動させ、岩に赤や白の色を残した。地表へ現れた岩は、今度は砂を運ぶ風によって削られ続けている。

目の前の一枚の岩肌に、古代の砂丘、地下の化学変化、微生物、現代の風という、まったく異なる時間と作用が同時に現れている。

だからザ・ウェーブは「波の形をした岩」なのではない。

それは、約1億9000万年前の砂漠の内部構造を、現在の風が少しずつ彫り直し続けている地形なのである。

参考資料・出典

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