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レンソイス・マラニャンセス|白い砂丘に青い湖が現れる理由

レンソイスの白砂丘と青い湖 奇妙な地形・地質

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ブラジル北東部の大西洋岸には、地平線まで白い砂丘が連なり、その谷間を青や緑の水が埋め尽くす場所がある。

レンソイス・マラニャンセス国立公園(Parque Nacional dos Lençóis Maranhenses)だ。

写真だけを見ると、巨大な砂漠に無数の湖が突然現れたように見える。砂丘が乾燥地の象徴なら、これほど大量の水が同じ場所にあるのは奇妙に思える。

しかし、この景観の謎を解く鍵は「砂漠なのに、なぜ湖があるのか」ではない。

そもそも、ここは典型的な砂漠ではない。そして湖に見える水面も、砂丘とは別々に存在しているわけではない。

砂、風、雨、地下水。四つの要素が季節ごとに組み合わさり、砂丘と水面を同時に作り替えている。

レンソイス・マラニャンセスは、完成した風景ではなく、毎年形を変え続ける巨大な地形システムなのである。

レンソイス・マラニャンセスの白い砂丘と青緑色のラグーン
白い砂丘の間に広がる季節性ラグーン。砂丘も水面も固定されたものではなく、季節とともに変化する。
写真:Dunas e lagoas nos Lençóis Maranhenses/作者:Bruno Lenharo/ライセンス:CC BY-SA 4.0

白い「シーツ」が大地を覆う

レンソイス・マラニャンセスは、ブラジル北東部のマラニョン州(Maranhão)、大西洋に面した地域に広がっている。

国立公園として管理されている範囲は、ブラジルのシコ・メンデス生物多様性保全研究所(Instituto Chico Mendes de Conservação da Biodiversidade、ICMBio)が示す面積で15万6,608.16ヘクタール。ユネスコ(UNESCO)の世界遺産登録区域は15万6,562ヘクタールで、両者にはわずかな数値差がある。

そのうち約9万ヘクタールを砂丘地帯が占める。

海岸線は約80キロメートル。砂丘は海岸から20キロメートル以上も内陸へ入り込み、場所によっては高さ約30メートルに達する。

「レンソイス」という名称には、ポルトガル語で「シーツ」という意味がある。

巨大な白い砂丘が幾重にも折り重なる様子が、ベッドの上に広げられた白いシーツのように見えることから、この名が生まれたとブラジルの公園管理資料は説明している。

上空から眺めれば、その比喩はかなり分かりやすい。

白い砂丘の稜線が波のように延び、その合間に雨季になると青緑色の水面が入り込む。ところが、その美しい対比は一年中続くわけではない。

水面は増え、縮み、消える。

そして砂丘の側も動いている。

大西洋岸から内陸へ広がるレンソイス・マラニャンセスの砂丘帯を捉えた偽色衛星画像
Copernicus Sentinel-2による2024年9月15日の偽色衛星画像。海岸に沿って広がる巨大な砂丘システムの規模が分かる。
衛星画像:The dunes and lagoons of Lençóis Maranhenses National Park, Brazil/European Union, Copernicus Sentinel-2 imagery/Attribution: Contains modified Copernicus Sentinel data 2024

Googleマップ

実は「砂漠」ではない

レンソイス・マラニャンセスを紹介するとき、「ブラジルの砂漠」という表現が使われることがある。

見た目だけなら無理もない。植物の少ない白砂が広大に続き、三日月形や帯状の砂丘が連なる光景は、典型的な砂漠のイメージとよく似ている。

しかし気候を見ると話は変わる。

この地域は熱帯の半湿潤な環境にあり、雨季にはかなりの雨が降る。つまり、水が極端に不足するために形成された典型的な乾燥砂漠ではない。

ここで大量の砂丘が存在できるのは、単純に「雨が少ないから」ではない。

大量の砂が海岸へ供給され、それを風が継続的に運び、砂丘を作る条件がそろっているからだ。

一方で、同じ地域には雨季があり、大量の水が砂地へ供給される。

この二つの条件が同時に存在することが、レンソイス・マラニャンセスを普通の砂丘地帯とは違う場所にしている。

砂はどこから来るのか

巨大な砂丘を維持するには、まず大量の砂が必要になる。

レンソイス・マラニャンセスでは、大西洋沿岸の堆積物、河川が運ぶ砂、沿岸流や潮汐によって再移動する砂が複雑に関わっている。

一般向けの公園解説では、東側にあるパルナイーバ川(Rio Parnaíba)が大陸から運んだ堆積物が海へ出て、沿岸漂砂によって西へ運ばれる過程が強調されている。

ただし、研究では砂の供給源について少し慎重な見方もある。

鉱物組成を調べた研究では、パルナイーバ川そのものだけではなく、河口より東側にある海岸や大陸棚由来の砂が沿岸漂砂で運ばれている可能性が示されている。別の研究では、沿岸漂砂と河川の双方が主要な供給源として扱われている。

したがって、「すべての砂を一本の川が運んできた」と考えるより、海岸、河川、潮汐、沿岸流がつくる大きな砂の循環を考えた方が実態に近い。

海岸に供給された砂は乾くと、今度は風に捕まる。

この地域では卓越する風によって砂が内陸側へ押し込まれ、巨大な砂丘地帯が発達していく。

砂丘は止まっていない

レンソイス・マラニャンセスで目立つのが、バルハン(barchan)と呼ばれる三日月形の砂丘や、それらが横につながった長大な砂丘列である。

海岸付近では、高さ0.5~1メートルほどの小さな砂丘が形成される。それらは内陸へ移動するにつれて成長し、先にできた砂丘と重なりながら、最大で約30メートルの高さに達する。

砂丘列の中には、長さが最大約75キロメートルに及ぶものもある。

重要なのは、これが固定された地形ではないことだ。

ユネスコの資料によれば、砂丘は年間およそ4~25メートル移動する。

一年で数メートルから数十メートル。

建物や道路を基準に考えると小さな数字に見えるかもしれないが、地形そのものが毎年これだけ動くと考えれば大きい。

今日そこにある谷間が、数年後にも同じ形で残っているとは限らない。

そして、この「動く谷間」に雨季の水が現れることで、レンソイス・マラニャンセスを象徴する景観が生まれる。

青いラグーンはどうして現れるのか

白い砂丘の間に現れる水面は、一般にラグーン(lagoon)と呼ばれている。

一見すると、砂丘のくぼみに雨水がそのまま溜まっているだけのように思える。

しかし実際の仕組みは、もう少し面白い。

雨季になると大量の雨が降り、降雨と蒸発散の季節変化に応答して地下水面が上昇する。

やがて地下水面が砂丘間の低地まで達すると、水面が地表に現れる。

これが多くの季節性ラグーンの正体である。

つまり、

雨が降る → 地下水位が上がる → 砂丘間の低地で地下水面が地表に現れる

という流れで形成される。

そのため「雨水が窪地に溜まる」という説明だけでは不十分だ。

水の供給源は降雨だが、景観を作っている直接的な仕組みには地下水位の季節変動が深く関わっている。

レンソイス・マラニャンセスのラゴア・ドス・ペイシェスと白い砂丘、植生
ラゴア・ドス・ペイシェス。砂丘だけでなく、水域や植生もレンソイス・マラニャンセスの環境を構成している。
写真:Lagoa dos Peixes – Lençois Maranhenses/作者:Mayra Pavanello Munerato/ライセンス:CC BY-SA 3.0

雨季が終わると、状況は逆転する。

地下水位が下がり、多くのラグーンは縮小する。そして場所によっては完全に姿を消す。

ただし、すべてが消えるわけではなく、国立公園には恒常的なラグーンも存在する。

水が引いた砂丘間の低地では、乾いた砂が再び風に動かされる。

その間にも周囲の砂丘は少しずつ移動している。

だから翌年、雨季が再びやって来て地下水位が上昇しても、前年とまったく同じ位置、同じ輪郭のラグーンが現れるとは限らない。

砂丘が動き、低地が変形し、その新しい低地に水が現れる。

この循環を繰り返すことで、「砂丘の間に湖が並ぶ」という全体像は保たれながら、細部の形は変わり続ける。

レンソイス・マラニャンセスの奇妙さは、ここにある。

砂丘と水は対立する存在ではない。

動く砂丘と上下する地下水が、一つの仕組みの中で同じ景観を作っているのである。

水が砂丘の形まで左右する

さらに興味深いのは、地下水が単にラグーンを作るだけではないことだ。

砂丘形成の数値モデルを使った研究では、雨季と乾季に上下する地下水位を考慮することで、レンソイス・マラニャンセス特有の長い砂丘列と砂丘間水域を再現できることが示されている。

これは、砂丘の形が風だけで決まっているわけではないことを意味する。

乾いた時期には砂が移動しやすい。

一方、地下水位が上がり、砂丘間に水面が現れる時期には、砂の移動できる場所が制限される。

風と砂だけの世界に、季節ごとに上下する水面が加わる。

その結果、砂丘の形や間隔、ラグーンとの位置関係が作られていく。

「砂丘の中に水がある」のではなく、「水の動きまで含めて砂丘地形ができている」と考える方が、この場所の本質に近い。

この景観は何万年も同じだったわけではない

現在の白い移動砂丘だけを見ると、広大な砂地が昔から同じ姿で存在していたように感じられる。

しかし、地質学的にはもっと長い変化の積み重ねがある。

レンソイス・マラニャンセス周辺には、現在活動している砂丘だけでなく、過去に形成され、その後安定化した古い風成堆積物も残されている。

研究では、厚さ13.8メートルの堆積層から、およそ13万年前から約1万3千年前までに相当する年代が得られている。

これは「現在見えている砂丘が13万年前からそのまま動き続けている」という意味ではない。

むしろ重要なのは、この地域で砂丘が形成される時期と安定する時期が繰り返されてきたことだ。

海面が変わる。

気候が変わる。

卓越風の強さや方向が変わる。

降水量も変わる。

そのたびに、砂丘は拡大したり、植物に覆われて安定したりしてきた。

そのため、レンソイス・マラニャンセスの砂は、単なる景観材料ではない。過去の気候や風の変化を記録する地質資料でもある。

2024年に世界自然遺産へ

レンソイス・マラニャンセス国立公園は1981年に設置された。

そして2024年、世界自然遺産に登録された。

評価されたのは、単なる景色の美しさだけではない。

ユネスコは、白い砂丘と季節性ラグーンが作る景観を評価する基準に加えて、第四紀の海岸砂丘形成や、風・海岸作用・地下水などが関わる地形形成過程そのものを重要な価値として認めた。

言い換えれば、レンソイス・マラニャンセスは「珍しい絶景」だから世界遺産になっただけではない。

現在進行形で地形が動き、その形成過程を観察できる場所でもあるからだ。

ここは無人の白砂地帯ではない

広大な砂丘の写真だけを見ると、人間がほとんど暮らしていない荒野のように感じられる。

しかし実際には、国立公園の中には国立公園設置以前から暮らしてきた伝統的コミュニティが存在する。

世界遺産登録時にブラジル側が提出した情報をもとにした国際自然保護連合(International Union for Conservation of Nature、IUCN)の2024年評価書では、公園内に4,154人が暮らしているとされた。

また、ブラジルの公園管理機関は2026年の情報で、公園内に58のコミュニティが存在するとしている。

住民は農業、漁業、家畜飼育などを営みながら、この土地と関わってきた。近年はホームステイや食事提供など、観光に関わる仕事も生活の一部になっている。

そのため保全の問題も、「自然を守るために人を排除する」という単純な構図ではない。

伝統的な土地利用をどう認めるか。

観光を地域の生計と保全にどう両立させるか。

車両の侵入、廃棄物、観光施設の拡大をどこまで管理するか。

レンソイス・マラニャンセスでは、動き続ける自然環境だけでなく、その中で暮らす人びととの関係も保全の一部になっている。

「湖のある砂漠」では説明しきれない場所

レンソイス・マラニャンセスは、短く説明しようとすると「砂漠に湖が現れる場所」と紹介したくなる。

しかし、その表現では一番重要な部分が抜け落ちる。

ここは典型的な砂漠ではない。

白い砂丘は海岸から供給された砂を風が運ぶことで作られ、今も年間数メートルから数十メートル移動している。

雨季には地下水位が上がり、砂丘間の低地に水面が広がる。

乾季になれば水位が下がり、多くのラグーンが縮小・消失して、再び砂が動きやすくなる。

そして次の雨季には、少し形を変えた砂丘の間に、水面が別の形で現れることがある。

つまり、この景観を作っているのは「砂と水の偶然の同居」ではない。

海から来た砂、内陸へ運ぶ風、季節的な雨、上下する地下水が繰り返す一つの循環である。

白い砂丘のあいだで水面が季節ごとに増減するのは、地形が安定しているからではない。

むしろ、絶えず動いているからこそ、この異様な景観は維持されている。

それが、レンソイス・マラニャンセスという場所の最も不思議なところなのかもしれない。

参考資料・出典

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