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パラオ・南ラグーンのロックアイランド群|52の海洋湖が隠れる世界遺産

パラオ南ラグーンの絶景ロックアイランド 奇妙な島・海・湖

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パラオの南ラグーンのロックアイランド群――海の中に「52の海」が生まれた奇妙な島々

パラオ(Palau)の海には、青緑色のラグーンから緑の小島が何百も浮かび上がる場所がある。島の多くは丸みを帯び、海面近くが細く削られているため、巨大なキノコが海に並んでいるようにも見える。

この景観は、南ラグーンのロックアイランド群(Rock Islands Southern Lagoon)として2012年に世界遺産へ登録された。世界遺産区域は約1,002平方キロメートルに及び、その内部には445の石灰岩島が点在している。

パラオの南ラグーンに浮かぶロックアイランド群の石灰岩島
パラオの南ラグーンに点在するロックアイランド群。海面付近が削られた石灰岩島が独特の景観をつくる。
写真:Rock Islands, Palau/作者:Matt Kieffer/ライセンス:CC BY-SA 2.0

しかし、この場所の本当の奇妙さは島の数や形だけではない。

島々の内部には、海からほとんど切り離されたように見える「海洋湖」が52も存在する。しかも、それぞれの湖では水の混ざり方や酸素量、生き物の顔ぶれが異なる。さらに、現在はほぼ無人の島々から、かつて人が暮らした村や墓、岩絵まで見つかっている。

なぜ、同じ海の中にこれほど多くの島と「海の湖」が生まれたのだろうか。

緑の島々は、もともとサンゴ礁だった

ロックアイランドの景観を理解するには、まず島そのものの正体から見ていく必要がある。

パラオ諸島の基盤には火山活動によって生まれた島々があり、その周辺では長い時間をかけてサンゴ礁が発達した。やがて地殻運動によって古いサンゴ礁由来の炭酸塩岩が持ち上げられ、陸上に姿を現した。

つまり、現在ラグーンに浮かぶ緑の島々の多くは、海底火山の山頂がそのまま残ったものではない。かつて海の中で形成されたサンゴ礁が石灰岩となり、隆起したものなのである。

石灰岩は雨水や地下水によって溶かされやすい。そのため、隆起した島々では長い年月をかけて洞窟、穴、アーチ、入り江、細い水路などが刻まれた。こうした溶食地形はカルスト(karst)と呼ばれる。

さらに波による侵食も加わり、海面付近が強く削られた島では、上部が大きく下部が細い独特の形が生まれた。ロックアイランドを象徴する「キノコ型」の輪郭は、こうした地質と侵食の積み重ねによるものだ。

島の内側に取り残された「海」

カルスト地形がつくった窪地や盆地は、その後さらに奇妙な場所へ変わっていった。

最終氷期が終わると、世界の海面は上昇した。低い場所にあった石灰岩の盆地にも海水が入り込み、やがて周囲を陸に囲まれた湖のような水域ができた。

これが海洋湖である。

一見すると普通の湖だが、完全に海から孤立しているわけではない。石灰岩の割れ目や地下の水路などを通して、外海やラグーンと海水が行き来する湖がある。ただし、そのつながり方は湖ごとに違う。

世界遺産区域内では52の海洋湖が確認されている。一方、パラオ全体では約57あるとされる。数字が違うのは資料の矛盾ではなく、数えている範囲が異なるためだ。

しかも、これらの湖は一度に同じ形で生まれたわけではない。盆地の深さや高さが違うため、海面上昇によって海水が入り込んだ時期も湖ごとに異なると考えられている。研究では、おおむね最終氷期後の数千年から1万年以上前にかけて成立していったとみられている。

すぐ隣の湖なのに、中身が違う

海洋湖が特別なのは、数が多いからだけではない。

ある湖では水が比較的よく混ざり、外のラグーンに近い環境が保たれている。別の湖では上下の水がほとんど混ざらず、深い場所が無酸素状態になる。さらに、下層に硫化水素を含む水がたまる湖まである。

距離としては近くても、湖ごとに塩分、酸素量、光、水温、外海とのつながり方が違う。その結果、生物にとっては一つ一つが別々の環境になる。

このため南ラグーンの海洋湖は、進化や生態系の変化を調べる「自然の実験室」として研究されてきた。

普通、自然界で進化を比較しようとしても、場所が離れれば気候や地質まで変わってしまう。しかしパラオでは、同じ地域に似た成り立ちをもつ湖が多数並び、それぞれで海とのつながり方や水環境が異なる。

言い換えれば、同じ海から枝分かれした小さな世界が何十個も隣り合っているのである。

ジェリーフィッシュ・レイクは、その代表例

海洋湖の中で最もよく知られているのが、ジェリーフィッシュ・レイク(Jellyfish Lake)だ。

パラオのジェリーフィッシュ・レイクを泳ぐ多数のクラゲ
ジェリーフィッシュ・レイクを漂うクラゲ。隔離された海洋湖は、生物の進化や生態系の変化を研究する場になってきた。
写真:Jellyfish Lake, multitudes of jellies/作者:Lukas / LuxTonnerre/ライセンス:CC BY 2.0

この湖を含む複数の海洋湖では、タコクラゲの仲間がそれぞれ異なる形態や行動を示すことが研究されてきた。2005年には、パラオの海洋湖に生息するクラゲについて5つの新亜種が記載された。

ただし、「湖ごとに完全に別の種へ進化した」と言い切るのは正確ではない。その後の分子系統研究では、湖に適応した似た特徴が別々の場所で独立に生じた可能性など、より複雑な進化史が示されている。

ここで重要なのは、観光写真で知られるクラゲそのものよりも、湖が生物を隔離し、短い地質学的時間の中で変化を生み出してきた点にある。

ロックアイランド南ラグーンは、美しい島々の集合であると同時に、進化や種分化の過程が研究される場所でもある。

「無人島群」の地下には、人の歴史が眠っている

自然だけを見ていると、この場所は昔から人のいない島々だったように思える。しかし考古学はまったく違う姿を示している。

現在、世界遺産区域には恒久居住者はいない。だが、人間活動を示す証拠は考古学年代で3,100 BP(Before Present、1950年を基準とする年代表記)までさかのぼる。初期には、海産資源を利用する短期的、あるいは季節的な活動が行われていたと考えられている。

そして、およそ1200年頃になると、島々には恒久的な石造集落が現れた。防御壁、段状の土地、家屋の基壇などが造られ、人々は狭い島の環境を利用して生活した。

洞窟からは埋葬の痕跡が見つかり、ほかにも貝塚や岩絵、村の跡が残されている。

ところが、こうした集落は17~18世紀になると放棄されていった。

なぜ、人々は島を離れたのか

この問いにも、単純な答えはない。

研究では、淡水の不足、人口圧、資源の消耗、海産資源への依存、旱魃や気候変動など、複数の要因が重なった可能性が考えられている。人々は突然消滅したのではなく、より大きな島々へ移っていったとみられる。

この「島を離れた歴史」そのものが、世界遺産として評価された重要な要素である。

世界遺産というと、巨大な建築物や繁栄した都市が残っている場所を想像しやすい。しかし南ラグーンのロックアイランド群では、限られた淡水と資源の中で人がどう暮らし、そしてなぜ居住を続けられなくなったのかという歴史までが価値の一部になっている。

しかも、島から人がいなくなったからといって、人との関係が切れたわけではない。かつて島々で暮らした人々の子孫は、伝説、神話、踊り、ことわざ、地名などを通して祖先とのつながりを伝えてきた。

「無人島」という言葉だけでは、この場所の歴史を説明できないのである。

1783年、難破船が島々の歴史に入り込んだ

さらに18世紀になると、ロックアイランドは外の世界との接触史にも登場する。

1783年、イギリス東インド会社(East India Company)の船アンテロープ号(Antelope)がパラオで難破した。生存者たちはウロン島(Ulong Island)の保護された入り江に拠点を置き、現地社会と接触した。

1788年刊行のウロン島における英国人の野営地を描いた版画
1783年のアンテロープ号難破後、ウロン島に設けられた英国人の野営地を描いた1788年刊行の版画。事件当時の写真ではない。
図版:A View of the Cove and Tents of the English at Oroolong/Thomas Maltonほか/1788年/Public Domain

世界遺産の文化的価値を審査した国際記念物遺跡会議(ICOMOS)の評価資料では、この接触と、乗員がもたらした武器や支援が、当時のコロール(Koror)の政治的優位にも影響したとされている。

サンゴ礁から生まれた島、隔離された海洋湖、石造集落、そして18世紀の難破船。同じ島々の中に、地質学的な時間と人間の歴史が折り重なっている。

自然遺産だけでも、文化遺産だけでも説明できない

南ラグーンのロックアイランド群は、2012年に自然と文化の両方を評価する複合遺産として世界遺産に登録された。

登録対象は約10万200ヘクタール。445の石灰岩島、52の海洋湖、サンゴ礁、マングローブ、海草藻場などが一体となり、登録時の評価では746種の魚類と385種以上のサンゴが記録されていた。

一方で、そこには数千年に及ぶ人間利用の痕跡もある。

このため、この場所を単に「パラオの絶景」として見るだけでは、その価値の半分しか見えてこない。

奇妙な島の形は、古いサンゴ礁と侵食の結果である。その島の内部に残された盆地へ海が入り、海洋湖ができた。湖ごとに異なる隔離環境が生まれ、生物はそれぞれ違う方向へ変化した。そして人間もまた、この限られた島の環境に適応し、やがてそこを離れた。

風景、進化、人類史は別々の話ではない。すべてが、同じ石灰岩の島々から始まっている。

今も続く変化と保全

この世界遺産は、過去の姿をそのまま凍結して保存できる場所ではない。

サンゴ白化、海岸侵食、気候変動、観光圧などは現在も大きな課題である。2025年の国際自然保護連合(IUCN)による世界遺産評価では、保全状態は「良好だが、いくつかの懸念あり(Good with some concerns)」とされた。

一方、コロール州では利用区域を分け、一部の場所への立ち入りや採取を制限するなど、観光と保全を両立する管理が続けられている。海洋湖も自由に入れる場所ばかりではない。

このことは、ロックアイランド南ラグーンが単なる観光資源ではなく、生きた生態系であり、文化的な土地でもあることを示している。

52の湖が教えてくれること

ロックアイランド南ラグーンを上空から見れば、まず目を奪われるのは緑の島々と青い海だろう。

だが、その景色の内側には、さらに小さな海が52も隠れている。

それぞれの湖は、同じ海から生まれながら、少しずつ違う環境をもち、違う生態系を育ててきた。その周囲では人間もまた、島の制約に合わせて暮らし方を変え、ついには別の土地へ移っていった。

だからこの場所の不思議さは、奇妙な形の島が並んでいることだけではない。

一つの海が無数の小さな世界へ分かれ、それぞれが別の歴史を歩み始めたことにある。

参考資料・出典

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