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サンポール島|海に壊された火山と南インド洋の立入禁止島

サンポール島、嵐に沈む禁断の火山島 立入困難・隔絶された場所

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海に壊された火山――南インド洋・サンポール島の中央になぜ海があるのか

南インド洋の南部に、中央部が海へ大きく開いた奇妙な火山島がある。サンポール島(Île Saint-Paul)だ。フランス領南方・南極地域(Terres australes et antarctiques françaises)の一部で、面積はおよそ8平方キロメートル。恒常的な住民も常設基地もなく、現在は一般の上陸が原則として認められていない。

地図だけを見ると、小さな島の中央に、丸い海が入り込んでいるように見える。これは湖ではない。島の中心にあるカルデラへ海水が侵入し、外洋と細い水路でつながった火口湾である。

なぜ、火山島の真ん中が海になったのか。そして、これほど隔絶された島に、なぜ人は何度も足を運んできたのか。

サンポール島の歴史をたどると、ひとつの小島の中に、火山の崩壊、天文学の観測、産業化の失敗、外来種による生態系の変化、そして自然再生までが重なっていることが見えてくる

海上から見たサンポール島の全景。火山性の崖と島の輪郭が広がる
南インド洋に孤立するサンポール島を海上から望む。
写真:2020-11 Saint-Paul Island 21.jpg/作者:Antoine Lamielle/ライセンス:CC BY-SA 4.0

火山の頂上だけが海面から残った島

サンポール島は、アムステルダム島(Île Amsterdam)から南へ約90キロメートル離れた南インド洋上にある。近年の研究では面積約820ヘクタール、最高地点は268メートルとされている。

島そのものは、巨大な海底火山のごく一部にすぎない。

周辺海底にはアムステルダム・サンポール海台(Amsterdam–St. Paul Plateau)と呼ばれる火山性の高まりがあり、その形成には南東インド洋海嶺(Southeast Indian Ridge)とマントル由来の火成活動が関わったと考えられている。

つまり、海上から見えるサンポール島は、海底から立ち上がる大きな火山体の頂部なのである。

現在の島には直径およそ1.8キロメートルのカルデラがある。しかし、完全な円形の火口壁は残っていない。火山体の北東側が大きく崩れ、そこから海が内部へ入り込んだためだ。

こうして、島の中央には海とつながった巨大な火口湾ができた。

フランス極地研究所の解説では、火口湾は1キロメートルを超える広さがあり、深さはおよそ80メートル。外洋とは、わずか2~3メートルほどの浅い狭水路でつながっている。

一見すると「島の中に湖がある」ように見えるが、実際には海そのものなのである。

静かな火口湾と荒れる外洋

この地形は、人間にとっても特別だった。

南インド洋は強い偏西風と大きなうねりにさらされる。ところが、サンポール島の火口内部は外洋からある程度守られている。19世紀の地理学者シャルル・ヴェラン(Charles Vélain)は、この火口湾を天然の避難港のような場所として記録している。

ただし、安全な港というわけではない。

外海と火口湾をつなぐ入口は浅く狭い。外洋側では強い波が立ち、船の出入りは容易ではなかった。火口湾は「穏やかな内側」と「荒れる外側」が、ほんの短い水路を挟んで隣り合う地形だった。

絶海の火山島が天文学の観測所になった

1874年、サンポール島には思いがけない目的でフランスの科学隊がやって来た。

目的は金星の日面通過だった。

金星の日面通過とは、地球から見て金星が太陽の手前を横切る現象である。19世紀の天文学者たちは、この現象を世界各地から観測し、観測地点ごとの差を利用して太陽と地球の距離をより正確に求めようとしていた。

フランスは世界各地へ観測隊を送り、その一隊を海軍士官で天文学者のエルネスト・ムーシェ(Ernest Mouchez)が率いた。

隊は悪天候の中でサンポール島へ上陸し、居住施設と複数の観測小屋を建設した。そして1874年12月9日、金星が太陽面を横切る様子を観測した。

現在では一般上陸が原則禁止される小さな無人島が、当時は太陽系の尺度を測ろうとする国際的な観測網の一点になっていたのである。

イセエビを求めてつくられた缶詰工場

サンポール島に人を引き寄せたのは科学だけではなかった。

周辺海域はイセエビ類に富み、20世紀初頭には漁業資源として注目された。1920年代末にはフランス系企業が島に缶詰工場を設け、漁獲したイセエビを加工する事業を始めた。

しかし、この隔絶した島で工場を運営することには、大きな危険が伴った。

1930年、事業の閑散期に施設管理を続けるため、7人が島に残された。しかし救援船が戻ったのは同年12月で、長い孤立を強いられた。

ようやく船が戻ったとき、7人のうち4人が死亡していた。

この出来事は後に「サンポール島の忘れられた人々」と呼ばれるようになる。

ただし、サンポール島の悲劇はこれだけではない。

翌1931年には、缶詰工場で働いていたマダガスカル人労働者の間で脚気が流行し、フランス国立公文書館の記録では44人が死亡した。

「忘れられた7人」の4人の死と、翌年の44人の死は別の出来事である。二つを一つの遭難事件としてまとめてしまうと、島で起きた産業史と労働史の実像が見えなくなる。

人間が去っても、影響は残った

缶詰工場は長く続かなかった。しかし、人間が島へ持ち込んだものは残った。

クロネズミ、ハツカネズミ、ウサギなどの外来哺乳類である。

もともと海洋島の海鳥は、陸上の哺乳類捕食者がほとんどいない環境で繁殖してきた。そこへネズミが入ると、卵や雛が襲われる。ウサギは植生を変え、営巣環境そのものを損なう。

サンポール島でも海鳥は大きな打撃を受けた。

ところが、本島からおよそ150メートル離れた小岩礁ラ・キーユ(La Quille)には外来哺乳類が侵入せず、本島から姿を消した海鳥の一部がそこで繁殖を続けていた。

島のすぐそばに、小さな「避難所」が残っていたのである。

手前にラ・キーユ岩礁、背後にサンポール島の火山性の崖が見える
手前の小岩礁がラ・キーユ。外来哺乳類が侵入しなかったため、一部の海鳥にとって重要な避難場所になった。
写真:Île Saint-Paul.jpg/作者:Bruno Navez(B.navez)/ライセンス:CC BY-SA 3.0

ネズミを消すと、海鳥が戻ってきた

1997年、サンポール島ではクロネズミとウサギの根絶を目的とした大規模な事業が行われた。

研究報告によると、ヘリコプターを使って殺鼠剤を含む餌がおよそ13.5トン散布され、その後数年間にわたって追跡調査が続けられた。

結果として、クロネズミとウサギの根絶には成功した。

その後の変化は大きかった。

2021年に発表された研究では、根絶前にサンポール島で繁殖が確認されていた海鳥は6種だったが、約20年後には13種に増えていた。

ラ・キーユで生き残っていた鳥たちの一部が、本島へ戻ってきたのである。

ただし、生態系が完全に人間到来以前の状態へ戻ったわけではない。ハツカネズミはこの根絶事業では消えず、少なくとも2021年の研究時点では島に残っていた。

それでも、サンポール島は「外来哺乳類を取り除くことで海鳥が再定着した島」として、海洋島の保全を考えるうえで重要な例になった。

いま、島はほぼ人を受け入れない

現在のサンポール島には恒常的な住民はいない。科学者が短期間訪れることはあるが、常設の研究基地もない。

島全体と火口は厳格な保護対象で、上陸にはフランス領南方・南極地域当局の明示的な許可が必要である。火口内部への投錨も原則禁止されている。

さらにサンポール島を含むフランス南方地域は国立自然保護区に指定され、2019年には「フランス領南方地域の陸と海」としてユネスコ(UNESCO)の世界自然遺産に登録された。

ここは「交通が不便だから行けない島」ではない。

自然環境を守るため、法的にも一般の立ち入りが強く制限されている島なのである。

サンポール島が見せる二つの時間

サンポール島には、二つの異なる時間が流れているように見える。

一つは、火山が生まれ、崩れ、海がカルデラへ入り込むまでの地質学的な時間。

もう一つは、わずか数百年の間に人間が上陸し、領有し、観測所や工場をつくり、外来種を持ち込み、やがてそれを除去して自然を回復させようとした歴史の時間である。

島の中心に海があるのは、火山が壊れたからだ。

海鳥が再び戻ってきたのは、人間が自ら持ち込んだ問題の一部を取り除いたからだ。

そして現在、この島がほとんど人を受け入れないのは、隔絶しているからだけではない。脆弱な生態系を守るためでもある。

サンポール島は、単なる「絶海の無人島」ではない。

火山が海に崩れ、人間が入り、自然が変わり、その人間が再び距離を置くようになった――そのすべてが、小さな島の輪郭の中に刻まれている。

参考資料・出典

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