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ビュルネイ島/ベア島|100万羽の海鳥が集まる北極圏の孤島

北極孤島を舞う100万羽の海鳥 立入困難・隔絶された場所

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ビュルネイ島/ベア島――「熊の島」なのに、100万羽の海鳥が主役の北極圏の孤島

ノルウェー本土とスヴァールバル諸島(Svalbard)の間、バレンツ海に孤立して浮かぶ島がある。ビュルネイ島(Bjørnøya)、英語名ではベア島(Bear Island)と呼ばれる、面積約178平方キロメートルの孤島だ。

名前だけを見れば、ホッキョクグマが群れる島を想像するかもしれない。だが実際のビュルネイ島で圧倒的な存在感を持つのは熊ではない。南部の断崖には膨大な数の海鳥が集まり、国際的に重要な繁殖地をつくっている。一方で島には、かつて200人近い人々が冬を越した炭鉱町の廃墟があり、現在も少人数の気象観測要員が通年滞在する。

全面的に立入禁止というわけではない。それでも、定期交通はなく、海岸の多くは険しく、天候は不安定で、繁殖期には保護のため立入が制限される場所もある。

なぜ、これほど小さく孤立した島が、海鳥、人間の歴史、そして地球規模の環境問題までを凝縮した場所になったのだろうか。

北極圏に浮かぶ「熊の島」

ビュルネイ島は、ノルウェー領スヴァールバルの最南端に位置し、およそ北緯74度30分、東経19度にある。最寄りの大きな居住地であるロングイェールビーン(Longyearbyen)からも約430キロメートル離れている。

島名の由来は16世紀までさかのぼる。1596年、オランダの航海者ウィレム・バレンツ(Willem Barentsz)らの船がこの島を記録し、その際にホッキョクグマと遭遇したことから「熊の島」と名づけられたとされる。

ところが、現在の島にホッキョクグマが常住しているわけではない。冬、流氷が島の周辺まで南下した年には姿を見せることがあるが、通常は海氷が後退するとともに北へ移動する。

島の名を生んだ動物は、ときどき訪れる存在にすぎない。むしろこの島を特徴づけているのは、空と崖を埋める海鳥である。

島の南北で、まるで別の地形になる

ビュルネイ島は小さいが、北と南で景観が大きく異なる。

北部から西部には標高30〜40メートルほどの低く緩やかな土地が広がり、その上に数多くの湖や池が点在している。湖沼の数は資料によって約740、約750、約1,200とかなり差があるため、一つの数字に固定するのは難しい。ただし、湖沼が島の面積のおよそ1割を占めるという点からも、水の多い低地であることは確かだ。

一方、南へ進むと景色は一変する。山地が現れ、海岸には高さ約400メートルに達する断崖が続く。最高地点はミゼリーフィエレット(Miseryfjellet)の山頂域で、標高は約536メートル。海から直接立ち上がるような岩壁の周囲には、シーレン(Sylen)やスタッペン(Stappen)といった岩塔もそびえている。

この険しい地形は、訪問を難しくする原因であると同時に、海鳥にとっては理想的な住処でもある。

ビュルネイ島南部で海から切り立つ高い断崖
ビュルネイ島南端の断崖。南部には海から約400メートルに達する切り立った海岸が続く。
写真:Bear Island Cliffs (52499929056).jpg/作者:David Stanley/ライセンス:CC BY 2.0

100万羽規模の海鳥を呼ぶ「海」と「岩」

ビュルネイ島の周辺海域では、異なる性質の水塊が接する極前線(polar front)が形成される。こうした場所ではプランクトンの生産が活発になり、それを餌にする魚が集まり、さらに魚を狙う海鳥が集まる。

しかし、餌が豊富なだけでは巨大な繁殖地はできない。

島の南部には、ドロマイト質の石灰岩が割れて生じた無数の岩棚がある。海から切り立つ崖の途中に並ぶ細かな棚は、海鳥にとって巣を構えやすく、陸上の捕食者も近づきにくい。

つまりビュルネイ島には、「大量の餌を生み出す海」と「繁殖に向いた岩壁」が同時にそろっている。

ラムサール条約(Ramsar Convention)の登録資料では、過去の集計として126種の鳥類が確認され、33種が繁殖し、繁殖期には100万羽を超える海鳥が集まると評価されている。ウミガラス、ハシブトウミガラス、ヒメウミスズメ、ミツユビカモメなどが代表的だ。

ビュルネイ島沖の海面に浮かぶ2羽のウミガラス
ビュルネイ島で撮影されたウミガラス。島の南部には100万羽を超える海鳥が集まる繁殖地がある。
写真:NOR-2016-Bear Island-Common murre (Uria aalge) 01.jpg/作者:Andrew Shiva / Wikipedia/ライセンス:CC BY-SA 4.0

そのため現在のビュルネイ島を象徴する動物を一つ選ぶなら、島名の由来になったホッキョクグマよりも、むしろ海鳥ということになる。

かつて孤島に「炭鉱町」があった

現在の静かな自然保護区だけを見ていると想像しにくいが、20世紀初頭のビュルネイ島には炭鉱町が存在した。

島北東部のトゥンハイム(Tunheim)では、1916年から1925年にかけて石炭が採掘された。ノルウェー極地研究所(Norwegian Polar Institute)の資料によれば、約11万5,000トンの石炭が搬出され、町には25棟ほどの建物が建ち、最盛期には最大182人が越冬した時期もあった。

石炭を運ぶための鉄道まで敷かれていた。

しかし採炭事業は1925年に終わった。その後、第二次世界大戦中には連合軍の措置でトゥンハイムの住民・要員が退避し、施設が破壊された。戦後、町は廃墟として残った。現在も建物跡や鉱業施設、鉄道の痕跡が残り、島の文化遺産となっている。

人間がほとんどいない北極圏の孤島という現在の姿と、100人を超える人々が冬を越していた炭鉱町という過去。この落差は、ビュルネイ島の歴史を際立たせている。

完全な無人島ではない

炭鉱は消えたが、人間の常駐そのものが途絶えたわけではない。

北岸のヘルヴィハムナ(Herwighamna)には気象観測施設があり、現在も少人数の要員が通年滞在している。資料では約9人規模とされるが、交代勤務などによって人数は変わり得るため、「人口9人の島」というより、通年有人の観測拠点が置かれている島と考えた方が正確だ。

海側から見たビュルネイ島の気象観測所の建物群
ビュルネイ島の気象観測所。孤島ではあるが、現在も気象観測要員が通年滞在している。
写真:Bjørnøya meteorologiske stasjon.jpg/作者:Vetle Nilsen Malmberg/ライセンス:CC BY-SA 4.0

観測の歴史は古い。詳細な公式資料では1919年に無線局が開設され、1923年にはトゥンハイムに気象観測施設が設けられたとされる。戦後の1947年にはヘルヴィハムナに新しい気象・無線施設が建てられ、現在につながっている。

さらに1980年代からは海鳥の長期モニタリングも続いており、ビュルネイ島は北極圏の自然を継続的に観察する研究拠点でもある。

なぜ、こんなに訪れにくいのか

ビュルネイ島は「許可なく誰も入れない秘密の島」ではない。訪問の難しさは、単一の禁止措置ではなく、いくつもの条件が重なって生まれている。

第一に、海岸そのものが険しい。ノルウェー極地研究所は島の海岸の多くを接近困難と説明し、利用可能な港としてソールハムナ(Sørhamna)を挙げている。

第二に、一般旅行者が使える定期フェリーや定期航空路がない。保護区内への航空機の着陸も原則禁止されているため、飛行機で簡単に降り立つこともできない。

第三に、自然保護上の規制がある。ビュルネイ島自然保護区(Bjørnøya naturreservat)は2002年に設定され、2008年には海域の保護範囲が沿岸から12海里まで拡張された。現在、保護区海域へ入る船舶は乗客200人以下に制限され、大規模な海鳥繁殖地の周辺では4月1日から8月31日まで通行が原則禁止される区域もある。

そして最後に、北極圏の海そのものが訪問者を選ぶ。霧や強風、荒天によって航海や上陸の可否が左右されるため、地図上では近づけそうに見えても、実際には簡単に足を踏み入れられる場所ではない。

「立入禁止だから行けない」のではなく、「行く手段が限られ、上陸地点が限られ、季節と自然保護の条件まで重なるから行きにくい」。それがビュルネイ島の隔絶性である。

島よりはるかに広い海まで守られている

ビュルネイ島の面積は約178平方キロメートルだが、自然保護区に含まれる海域は約2,805平方キロメートルに達する。島そのものより、周囲の海の方が圧倒的に広い。

これは海鳥を守るには、巣のある崖だけを保護しても足りないからだ。海鳥は海で餌をとり、崖で繁殖する。繁殖地と餌場は一つの生態系としてつながっている。

2010年には島と周辺海域がラムサール条約の国際的に重要な湿地にも登録された。保護対象は、孤島の景観だけではなく、海と陸をまたぐ生態系全体なのである。

人のいない北極の湖から、人間の汚染が見つかった

ビュルネイ島には、さらに意外な一面がある。

南部のエラショーエン湖(Ellasjøen)では、PCB(ポリ塩化ビフェニル)やDDT由来の物質など、残留性有機汚染物質が高濃度で検出された。島には大都市も工業地帯もなく、大規模な農業もない。それにもかかわらず、なぜ遠隔地の湖が汚染されるのか。

研究から浮かび上がった経路の一つが、大気による長距離輸送である。遠く離れた地域で放出された物質が、風や大気循環によって北極圏まで運ばれる。

もう一つが、海鳥による「生物輸送」だった。海で餌をとった鳥が汚染物質を体内に取り込み、繁殖地へ戻り、主に糞(グアノ)を通じてそれらを陸上や湖へ運ぶ。2007年の研究では、海鳥の糞による輸送がエラショーエン湖そのものに蓄積した汚染物質量の約80%を占めると推定され、輸送経路としては大気による長距離輸送の約30倍効率的だと評価された。

海鳥を豊かにした海と崖の組み合わせが、同時に遠方の汚染物質を陸上へ集める経路にもなり得るのである。

この発見は、ビュルネイ島の「隔絶」という言葉の意味を変える。

人間社会から何百キロメートルも離れていても、地球環境の中では孤立していない。船も道路も届きにくい島へ、大気と渡り鳥は世界の影響を運んでくる。

「孤島」は、世界から切り離されてはいなかった

ビュルネイ島には、大都市も道路網も空港もない。険しい海岸と不安定な天候に囲まれ、一般の旅行者が簡単に訪れられる場所でもない。

それでも、この島は決して「何もない場所」ではない。

16世紀の航海者がホッキョクグマに出会い、17世紀にはセイウチ猟が行われ、20世紀には炭鉱町がつくられた。現在は気象観測と海鳥研究の拠点となり、周囲の海まで含めて厳重に保護されている。

そして、遠い地域で排出された化学物質さえ、この島の湖まで届いた。

ビュルネイ島を本当に不思議な場所にしているのは、その「遠さ」だけではない。世界から切り離されているように見えながら、海流、鳥、大気、人間の歴史によって、むしろ世界と深く結びついていることである。

「熊の島」という名前の向こうにあるのは、北極圏の小さな孤島に地球全体のつながりが凝縮された風景なのだ。

参考資料・出典

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