ボリビアのラグナ・ベルデ|白い湖の隣にある「緑の湖」は、なぜこれほど違うのか

写真:Laguna Verde, Bolivia, 2016-02-02, DD 79-82 PAN.JPG/作者:Diego Delso(delso.photo)/ライセンス:CC BY-SA 4.0
ボリビア南西部、チリとの国境に近い高地に、ラグナ・ベルデ(Laguna Verde)と呼ばれる湖がある。標高は約4,300メートル。背後には標高約5,900メートルのリカンカブール火山(Licancabur)がそびえ、湖面は青緑色から緑色に見えることで知られている。
それだけなら、「鉱物の多い高地の湖」と説明して終わるかもしれない。
ところが、この湖にはさらに奇妙な点がある。すぐ隣にはラグナ・ブランカ(Laguna Blanca)、つまり「白い湖」があり、両者はごく近い距離に並んでいる。それにもかかわらず、水の化学組成も、生物の多さも、驚くほど違っている。
しかもこの二つの湖は、かつて一つだった可能性が高い。
では、同じ場所にあった水域が、なぜここまで別々の環境になったのだろうか。
標高4,300メートルの「緑の湖」
ラグナ・ベルデは、ボリビアのポトシ県スール・リペス地方にある高地湖で、エドゥアルド・アバロア・アンデス動物相国立保護区(Reserva Nacional de Fauna Andina Eduardo Avaroa)の南西部に位置する。
2024年の研究では、代表地点の標高は約4,328メートル。湖は非常に浅く、外海へ水が流れ出さない内陸流域に属する。
この地域は年間降水量がきわめて少ない。降った水は川となって海へ抜けるのではなく、閉じた盆地にたまり、強い日射と乾燥のもとで蒸発していく。その過程で水に溶けた塩類や各種元素が濃縮される。
ラグナ・ベルデの特異な水質は、こうした「水が出ていかない地形」と「強い蒸発」、さらに周囲の火山・地熱環境が重なって生まれている。
緑色の正体は「ヒ素」だけでは説明できない
ラグナ・ベルデについては、「ヒ素や銅などの鉱物が湖を緑色にしている」と説明されることが多い。
実際、この湖にヒ素が非常に多いことは研究で確認されている。2016年に採取された表層水では、全ヒ素濃度が約68〜72ミリグラム毎リットルに達した。湖底堆積物では、ヒ素濃度が約6,500ミリグラム毎キログラムという値も報告されている。
ただし、ここで注意が必要だ。
「ヒ素が多い」という事実と、「ヒ素そのものが水を緑色にしている」という説明は同じではない。
現在確認できる主要な査読研究は、湖水に含まれる塩類や金属・半金属、堆積物、生物相を詳しく調べているが、緑色を生み出している光学的な仕組みを一つの物質に絞り込んだわけではない。
一般向けの資料では、強く鉱物化した湖水や細かな懸濁物、浅い湖をかき混ぜる風などが色調に関わると説明されることが多い。しかし、どの成分が緑色の主因なのかは、今回確認した主要な査読研究だけでは特定できない。「ヒ素の湖だから緑色」という一言では不正確になる。
むしろ面白いのは、見た目の色よりも、水そのものが極端な化学環境になっていることだ。
隣の白い湖とは、化学的にまるで違う

写真:Laguna Verde from Licancabur.jpg/作者:Albert Backer/ライセンス:CC BY-SA 3.0
ラグナ・ベルデのすぐ隣にあるラグナ・ブランカは、位置だけを見ればほとんど同じ環境に見える。
しかし、2016年の比較調査では大きな差が測定された。
水中の溶解イオン量の目安になる電気伝導度は、ラグナ・ブランカが約29ミリジーメンス毎センチメートルだったのに対し、ラグナ・ベルデでは約1,128ミリジーメンス毎センチメートルだった。
単純比較でも桁が違う。
さらに生物相にも差がある。ラグナ・ブランカでは水鳥や無脊椎動物が確認される一方、同じ調査でラグナ・ベルデからは底生無脊椎動物が確認されなかった。
藻類の痕跡は見つかっているものの、それがその場で生きていた個体なのか、風や周辺水域から運ばれた死骸なのかは判然としない。DNA分析も十分な結果が得られず、研究者は高い塩分と金属・半金属濃度が、生物にとって非常に厳しい条件をつくっている可能性を指摘している。
つまり「生命がまったく存在しない湖」と言い切ることはできないが、少なくとも湖本体は、すぐ隣の湖よりはるかに生物が暮らしにくい環境らしい。
なぜ隣り合う二つの湖が、ここまで違うのか
その鍵の一つが、湧水にある。
ラグナ・ブランカの東岸には複数の湧水があり、比較的塩分の低い水が湖へ供給されている。一方、ラグナ・ベルデでは、同じような希釈効果をもつ水の供給が乏しい。
その結果、蒸発による濃縮がより強く進み、ラグナ・ベルデでは塩類やヒ素などが極端な濃度になったと考えられている。
二つの湖が近いからといって、同じ水循環をもっているとは限らない。
ほんのわずかな地形や湧水供給の違いが、長い時間をかけて水質と生態系を大きく分けてしまう。ラグナ・ベルデとラグナ・ブランカは、そのことを目に見える形で示している。
かつて「緑」と「白」は一つの湖だった
さらに興味深いのは、この二つの湖が昔から別々だったわけではないことだ。
ハイ・レイクス・プロジェクト(High-Lakes Project)の地形・年代研究によると、更新世末期には現在のラグナ・ベルデとラグナ・ブランカを含む場所に、より大きな一つの湖が広がっていた。
研究では、化石化した微生物岩などの放射性炭素年代から、約1万3,240年前に古湖が最大水位付近へ達していたと考えられている。
周囲には、かつての湖岸を示す旧汀線も多数残る。2003年の現地調査では、主要な旧汀線がおよそ30本、さらに小規模なものが十数本確認された。
湖面は一度に消えたのではない。
気候が乾燥化し、水の供給と蒸発の均衡が変わるにつれ、湖は段階的に縮小していった。その過程で水域が分かれ、現在のラグナ・ベルデとラグナ・ブランカが生まれたと考えられる。
現在は色も水質も大きく異なる二つの湖が、もとは同じ水域だったという事実は、この景観の見え方を大きく変える。
火山の麓だからこそ生まれた極端な化学環境
ラグナ・ベルデの背後には、ほぼ円錐形の姿をしたリカンカブール火山がある。
この一帯は火山岩や火山性物質に富み、地熱活動の影響も受ける地域だ。ヒ素をはじめとする元素は、こうした火山・地熱系から自然に供給されることがある。
そこへ、外へ流れ出さない湖盆と激しい蒸発が加わる。
つまりラグナ・ベルデは、火山性の地質・地熱環境に、乾燥気候と閉鎖湖盆という条件が重なり、塩類や各種元素が強く濃縮された湖なのである。
「緑色だから珍しい」のではなく、緑色に見える湖の背後に、南米高地の火山活動と気候史が重なっている点こそ、この場所の本当の面白さだ。
生命がほとんど見えない湖の周辺には、微生物がいる
ラグナ・ベルデそのものは生物にとって過酷だが、周辺の湧水や流入部では事情が違う。
研究では、周辺の湧水流路などでシアノバクテリアを含む微生物マットが調べられている。
つまり、わずかな淡水供給や化学条件の違いだけで、「ほとんど生物を確認できない場所」と「微生物群集が成立する場所」が隣り合う。
これは極限環境研究にとって重要だ。
生命に必要なのは「湖があること」だけではない。塩分、温度、紫外線、水の供給、化学成分など、複数の条件が少し変わるだけで、生存可能性は大きく変わる。
なぜ火星研究で注目されたのか
ラグナ・ベルデを含むボリビア高地の湖は、地球外生命の研究でも注目されてきた。
ここでは高標高による強い紫外線、低温、大きな昼夜の温度差、高塩分、乾燥、火山・地熱環境が同時に存在する。
ハイ・レイクス・プロジェクトでは、こうした条件を、かつて湖が存在した可能性のある初期火星の環境を考えるための「地球上の類似環境」として調査した。
もちろん、ラグナ・ベルデが「火星と同じ場所」という意味ではない。
重要なのは、生命がどの程度の紫外線や塩分、低温、乾燥に耐えられるのかを、実際の地球環境で調べられることだ。
青緑色の湖を見つめながら、研究者たちが考えているのは、地球の高地だけではなく、別の惑星に生命が存在できる条件でもある。
リカンカブールは、単なる背景の山ではない
リカンカブールは景観上の目印であるだけでなく、この地域の文化史でも重要な山である。
近年の考古学研究では、山へ向かう巡礼路や遺物が調査され、巡礼の歴史が数千年前まで遡る可能性が示されている。
ただし、これはラグナ・ベルデそのものに特定の伝承があるという意味ではない。
現在確認できる信頼性の高い資料では、湖固有の先住民語名や独自の伝承を確定できていないため、湖と山の文化史を混同しないことが重要になる。
それでも、ラグナ・ベルデを取り巻く高地景観、とりわけリカンカブールが、長い文化史をもつ場所であることは考古学研究から読み取れる。湖そのものの文化的意味については、別途確かな資料が必要である。
保護区の中にある現在のラグナ・ベルデ
ラグナ・ベルデは現在、エドゥアルド・アバロア保護区の一部として管理されている。
さらに、この一帯はロス・リペス(Los Lípez)としてラムサール条約の国際的に重要な湿地にも登録されている。
ラムサール資料では、観光客の湖岸への接近、ゴミ、洗剤使用などが湿地への負荷として指摘されている。
奇妙な色の湖だからこそ多くの人を引きつけるが、その環境は大きな水量をもつ湖よりもはるかに繊細だ。
浅く、乾燥し、外へ水が抜けない湖では、一度入った物質が簡単には外へ流れ去らない。<!– Googleマップ:この節の本文後、次のH2の前に挿入 –>
Googleマップ|ラグナ・ベルデ代表地点
「緑の湖」の本当の不思議
ラグナ・ベルデの写真を見ると、最初に目に入るのは水の色だ。
しかし、この湖を本当に不思議な場所にしているのは、緑色だけではない。
すぐ隣の白い湖と、かつては一つだったこと。
同じ古い湖盆から分かれたのに、水質も生物相も大きく変わったこと。
火山と乾燥気候が、塩類やヒ素を極端な濃度まで濃縮したこと。
その過酷な環境が、火星に生命が存在できる条件を考える研究につながっていること。
ラグナ・ベルデは、「なぜ緑なのか」という疑問から入ると、最後には地球の気候史、火山活動、生命の限界、さらには火星の環境までつながっていく湖である。
参考資料・出典
- Guédron, S. et al. (2024), “Arsenic, selenium, and mercury speciation in hypersaline lakes of the Andean Altiplano: Link between extreme levels and biodiversity repartition.” Journal of Geochemical Exploration, 267, 107577.
IRD公開PDF - Cabrol, N. A. et al. (2009), “The High-Lakes Project.” Journal of Geophysical Research: Biogeosciences, 114.
Wiley全文ページ - Cabrol, N. A. et al. (2003), Licancabur Project / Lunar and Planetary Science Conference abstract.
LPI PDF - Fleming, E. D. & Prufert-Bebout, L. (2010), “Characterization of cyanobacterial communities from high-elevation lakes in the Bolivian Andes.” Journal of Geophysical Research: Biogeosciences.
Wiley全文ページ - Pimentel Guzmán, G. et al. (2025), “Antiguas peregrinaciones al volcán Licancabur en el Desierto de Atacama: Primeros resultados.” Latin American Antiquity.
Cambridge Core - SERNAP, “Informe de Gestión Institucional 2017.”
SERNAP PDF - The Convention on Wetlands, “Los Lípez: extensión de sitio Ramsar altoandino en Bolivia.”
ラムサール条約公式ページ - Ramsar Sites Information Service, “Los Lípez.”
Ramsar Information Sheet





