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スポッテッド・レイク|夏に水玉模様へ変わるカナダの塩湖

カナダ絶景 スポッテッド・レイク 奇妙な島・海・湖

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湖は夏、何百もの塩水プールに分かれる――カナダのスポッテッド・レイク/クリルーク

カナダ西部、ブリティッシュコロンビア州の町オソヨースから西へ約10キロ。ハイウェイ3号線(Highway 3)の脇に、夏になると奇妙な模様を現す湖がある。

その名はスポッテッド・レイク(Spotted Lake)。シーイールクス・オカナガン(Syilx Okanagan)の人びとは、この湖を **kɬlil̕xʷ(クリルーク、スポッテッド・レイク)**と呼ぶ。

写真で見ると、水面に黄色や緑、青みを帯びた円が無数に浮いているように見える。巨大な絵の具皿、あるいは水玉模様の布を地面に広げたようでもある。

夏のスポッテッド・レイク。蒸発により湖面が多数の円形・楕円形の塩水プールに分かれて見える
夏のスポッテッド・レイク。水の蒸発と塩類の濃縮によって、湖面が多数の塩水プールに分かれて見える。
写真:Spotted Lake, BC, Canada/作者:Christoph Strässler/ライセンス:CC BY-SA 4.0/

しかし実際には、「色のついた丸が水面に浮かんでいる」わけではない。

夏のスポッテッド・レイクでは、一つの湖そのものが、何百もの濃い塩水プールへ分かれていく。

しかもこの不思議な湖には、奇景だけでは終わらない物語がある。先住民にとっての聖地であり、20世紀には鉱物資源として掘られ、現在では古代火星の環境を考える研究対象にもなっているのだ。

なぜ湖が「水玉模様」になるのか

スポッテッド・レイクは、外へ流れ出す表面排水路を持たない閉鎖流域の塩湖である。

周囲の岩石や土壌から溶け出した成分は、水とともに湖盆へ集まる。ところが外へ流れ出す出口がないため、溶け込んだ塩類は湖に残りやすい。

春には地下水や雪解け水などが湖を満たす。ところが、この一帯の夏は乾燥している。蒸発が進むと水だけが失われ、硫酸マグネシウムや硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム系の成分が急激に濃縮されていく。

やがて塩類は結晶化し、湖底には塩の殻や石膏を含む泥の隆起ができる。その隆起に囲まれた低い部分に濃縮された水が残り、円形や楕円形の小さなプールへ分断される。

つまり、あの「斑点」の正体は模様ではない。

湖が蒸発しながら自分自身を細かく区切り、いくつもの高濃度の塩水プールへ変わった姿なのである。

スポッテッド・レイクの近景。塩の隆起に囲まれて複数の塩水プールが区切られている
斑点は水面に浮かぶ模様ではなく、塩類の結晶や泥の隆起によって区切られた高濃度の塩水プールである。
写真:Spotted Lake close-up/作者:AndrewEnns/ライセンス:CC BY-SA 3.0/変更なし

2011年に採取された試料からは、ブレーダイト、コニャ石、エプソマイト、石膏など、複数の硫酸塩鉱物が確認されている。1938年の調査では、結晶の「ボウル」のような部分が直径6〜24メートルに及ぶ例も記録された。

遠くからは小さな斑点に見えても、一つ一つは人間よりはるかに大きい。

「斑点は365個」は本当なのか

スポッテッド・レイクについて調べると、「一年の日数と同じ365個の斑点が現れる」という説明を見かけることがある。

確かにオカナガン・ネーション・アライアンス(Okanagan Nation Alliance)の教育資料では、この湖は「365の円」を持つ場所として紹介されている。

しかし、自然現象として斑点の数が常に365個に固定されているわけではない。

2013年9月に現地を観察した結晶学研究では、湖水は約670の独立した塩水プールに分かれていたと記録されている。

水位は毎年同じではない。蒸発量も、降水量も、塩殻がつくる仕切り方も変わる。どこからどこまでを一つのプールと数えるかでも数字は違ってくる。

だからこの湖の面白さは、「365」という数字が毎年再現されることではない。

むしろ、同じ湖なのに季節や水位によって模様そのものが組み替わることにある。

2019年6月30日に撮影されたスポッテッド・レイク。斑点の見え方が夏後半の写真とは異なる
2019年6月30日のスポッテッド・レイク。斑点の見え方は季節や水位によって変わるため、毎年同じ模様が現れるわけではない。
写真:Spotted Lake, Okanagan-Similkameen/作者:GoToVan/ライセンス:CC BY 2.0/変更なし

色とりどりに見える理由

プールの色も一定ではない。

オカナガン・ネーション・アライアンスは、色の違いにはそれぞれのプールに含まれる鉱物の組成や、その年の降水量が関係すると説明している。科学研究からも、この湖には多様な微生物が生息していることが分かっているが、個々の色を特定の微生物や鉱物だけに一対一で結びつけるのは難しい。

「黄色はこの鉱物、緑はこの鉱物」という単純な対応表があるわけではないのである。

湖の斑点は、鉱物の種類、濃度、水深、季節条件などが重なって現れる。そのため、同じ場所でも写真を撮る時期によって印象が大きく変わる。

スポッテッド・レイクは、一枚の完成された模様を見せる湖ではない。季節と水位によって姿を変え続ける模様の湖なのである。

シーイールクス・オカナガンにとっては「珍しい観光地」ではない

この湖を語るうえで、もっと重要なことがある。

クリルークは、シーイールクス・オカナガンの人びとにとって、長く身体的・精神的な治癒に関わる神聖な薬の湖とされてきた場所である。

オカナガン・ネーション・アライアンスが紹介する1979年のオカナガン・トライバル・チーフス(Okanagan Tribal Chiefs)の声明では、湖を取り囲む儀礼的な石積みや、それぞれの「円」が異なる薬・治癒の性質を持つという伝統が記されている。

これは、湖の水に現代医学で実証された治療効果があるという意味ではない。ここで大切なのは、土地と水が文化・信仰・儀礼と一体になった場所として何世代にもわたり扱われてきたという点だ。

ところが20世紀、この湖は別の価値でも見られるようになった。

鉱物資源である。

第一次世界大戦期には「湖そのもの」が採掘された

ブリティッシュコロンビア州の鉱床記録によると、スポッテッド・レイクでは1915年から1919年にかけて結晶質の塩類が商業的に採掘された。

記録に残る出荷量は、合計1,361トン。掘り出された結晶は国境を越えて米国ワシントン州オロビルへ運ばれ、そこで精製・販売された。

1940年の州地質資料には、結晶板をつるはしとシャベルで砕き、手押し車などで岸へ運んだ当時の作業方法も記録されている。

「第一次世界大戦中、湖の塩が爆薬に使われた」という話も広く知られており、州の地名資料にもその記録がある。ただし、戦時中に近いカナダ政府資料では、スポッテッド・レイク産の硫酸マグネシウムが実際にどの製品へ使われたかまでは追えない。

確実に言えるのは、神聖な湖が同時に鉱山でもあったということだ。

湖面に析出した結晶は、景観ではなく「採れる資源」として掘り出された。

観光開発の計画、そして湖を守るまで

採掘が終わった後も、この場所をめぐる緊張は続いた。

オカナガン・ネーション・アライアンスによれば、1963年にはアーネスト・スミス(Ernest Smith)が湖の鉱物権を取得し、その後、鉱物浴場として宣伝された時期もあった。1970〜1980年ごろには観光・商業開発のための再区画申請が行われ、シーイールクス・オカナガン側は長期にわたって開発に反対した。

転機となったのは2001年である。

長年の活動の末、オカナガン・ネーション・アライアンスと当時のカナダ先住民・北方開発相によって、湖を含む**56エーカー(約22.7ヘクタール)**の用地取得が完了した。

現在、クリルークはシーイールクス・オカナガン・ネーション(Syilx Okanagan Nation)によって保護・監視されている。

一般の訪問者が自由に湖畔へ降りたり、斑点の間を歩いたりできる場所ではない。通常はハイウェイ3号線側、ゲートの外から眺めることになる。ゲートの内側を訪れたい場合は オカナガン・ネーション・アライアンスに許可を求める必要があり、文化的・生態的に敏感な場所として扱われている。

写真だけを見ると「近づいて歩いてみたい」と思うかもしれない。だが、この湖では見えることと、入ってよいことは別なのである。

なぜこの湖が「火星」の研究につながるのか

スポッテッド・レイクの物語は、さらに地球の外へ延びていく。

2017年の微生物学研究では、この湖は硫酸塩濃度が3 mol/Lを超える極端な高塩環境として調査された。水や堆積物からは、多様な微生物群集も確認されている。

科学者が注目するのは、ここが単に「塩辛い湖」だからではない。

この場所には、

  • 硫酸塩が極端に濃縮する
  • 夏に強く乾燥する
  • 冬には凍結と融解が起こる
  • 硫酸塩の堆積物が有機物や生命の痕跡を濃縮・保存しうる

という条件がそろっている。

これは、かつて火星に存在した可能性がある硫酸塩に富む閉鎖湖を考えるうえで興味深い組み合わせだ。

もちろん、スポッテッド・レイクが「火星と同じ環境」というわけではない。

研究者が見ているのは、極端な塩環境で生命がどう生きるのか、そしてその痕跡が硫酸塩鉱物や湖底堆積物の中にどう保存されうるのかという点である。

いつか火星の古い湖底で生命の痕跡を探すとき、その読み方を地球上で考えるための場所の一つが、このカナダの小さな湖なのだ。

一つの湖に、まったく違う価値が重なっている

スポッテッド・レイクを珍しくしているのは、水玉模様だけではない。

地質学者にとっては、蒸発と結晶化がつくる天然の実験場。

20世紀の事業者にとっては、硫酸塩を掘り出せる鉱床。

惑星科学者にとっては、古代火星を考えるための地球上のアナログ環境。

そしてシーイールクス・オカナガンの人びとにとっては、それよりはるか以前から続く、治癒と儀礼に結びついた神聖な場所である。

同じ湖を見ても、人によって「何がそこにあるのか」はまったく違う。

夏、湖の水が失われるにつれて現れる無数の円は、その重なりを目に見える形で示しているようにも見える。

一つの湖でありながら、何百もの塩水プールへ分かれるスポッテッド・レイク。

その奇妙な風景の奥には、自然、文化、資源、科学という別々の世界が、一つの土地の上でせめぎ合ってきた歴史がある。

水玉模様だけを見て通り過ぎるには、少し惜しい湖である。


参考資料・出典

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