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テヌメール・クレーター|サハラに残る完璧な円の正体

テヌメール・クレーターの絶景 衛星画像で見る奇景

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砂漠に残る「ほぼ完全な円」――テヌメール・クレーターはなぜ隕石衝突跡と分かったのか

モーリタニアの砂漠に円形のリムが見えるテヌメール・クレーターの衛星画像
コペルニクス・センチネル2が捉えたテヌメール・クレーター。直径約1.9キロの円形リムが、周囲の岩石平原から明瞭に浮かび上がる。
写真:Tenoumer Crater, Mauritania/提供:European Space Agency/Contains modified Copernicus Sentinel data 2022/ライセンス:CC BY-SA 3.0 IGO

サハラ砂漠の衛星画像を眺めていると、広大な岩石平原の中に、不自然なほど整った円形の地形がひとつ現れる。

それが、モーリタニア(Mauritania)北部にあるテヌメール・クレーター(Tenoumer Crater)だ。

直径は約1.9キロ。巨大な山脈でも、大河川でもない。それでも上空から見ると、周囲の地形とは明らかに違う輪郭を持つ。

現在では、地球外天体の超高速衝突によってできたクレーターであることが確認されている。しかし、この結論にたどり着くまでには意外な遠回りがあった。

かつてテヌメールは、火山の爆発によってできた穴だと考えられていたのである。

しかも興味深いことに、当初「火山の証拠」とみなされた岩石の一部が、後になって「隕石衝突の証拠」へと意味を反転させることになった。

衛星画像では、砂漠の中に円だけが浮かぶ

テヌメール・クレーターは、モーリタニア北中部のティリス・ゼムール地方(Tiris Zemmour)に位置する。

インパクト・アース・データベース(Impact Earth Database)では、座標は北緯22度55分4秒、西経10度24分23秒。鉱山都市ズエラト(Zouérat)からは、およそ250キロ東、やや北にある。

この場所が「衛星画像で見る奇景」として印象的なのは、周囲の岩石平原の中で、クレーターの円形輪郭が強く目立つためだ。

米国航空宇宙局(NASA)が公開したアスター(ASTER)衛星画像では、乾燥した岩石平原の中に、ほぼ円形のリムがくっきりと見える。太陽光の向きによってリムの内側には影が生じ、平面的な衛星画像でもすり鉢状の地形であることが分かる。

欧州宇宙機関(ESA)が公開したコペルニクス・センチネル2(Copernicus Sentinel-2)の画像でも、その形は明瞭だ。

ただし、衛星画像だけを見て「円形だから隕石クレーター」と判断することはできない。

火山の爆発、地盤沈下、溶解による陥没、侵食などでも円形地形は生まれるからだ。

テヌメールも、まさにその問題に直面した。

最初は「火山の爆発跡」だと考えられていた

テヌメールが学術的に記載されたのは20世紀半ばだった。

1948年、フランスの地理学者ジャック・リシャール=モラール(Jacques Richard-Molard)は、この地形を爆発クレーターとして報告した。

当時、周辺では玄武岩質の溶岩や軽石と考えられた物質が確認され、それらを根拠に火山性の爆発地形とする考えが示された。

1951年にはアンドレ・アリックス(André Allix)が隕石衝突説を提案したが、当時は決定的な証拠がなかった。

その後も火山説は残り、1960年代には、クレーター周辺にある岩体を流紋デイサイト質の溶岩や岩脈のように解釈し、火山性起源を支持する研究も発表された。

外見だけを見れば、どちらの説も完全には排除できなかった。

問題は、この円を作るほどの出来事が、地面の中にどんな痕跡を残したのかだった。

決め手になったのは「石英の中の傷」

状況が大きく変わったのは1970年だった。

研究者たちがクレーター周辺の岩石を詳しく調べると、石英の結晶内部に、非常に強い衝撃を受けたときに形成される特徴が見つかった。

代表的なのが、平面変形構造と呼ばれる微細な構造である。

これは石英結晶の内部に規則正しい面状の変形が生じる現象で、通常の火山活動では説明しにくい、きわめて強い瞬間的な衝撃を示す重要な手掛かりになる。

さらに、レシャテリエライトやダイアプレクティック石英ガラスなど、強い衝撃と高温を示す物質も確認された。

そして、かつて火山の溶岩だと思われていた黒っぽい岩石そのものも再検討された。

同位体組成などを調べると、それは地下深部から上がってきたマグマではなく、衝突地点にもともと存在していた岩石が瞬間的に溶融してできた「衝突融解岩」と考える方が自然だった。

つまり、火山説の根拠だった岩石が、逆に隕石衝突説を支える証拠へと変わったのである。

現在、テヌメールが衝突クレーターであること自体は、確認済みの事実として扱われている。

約1.9キロの穴――しかし、本来の底は見えていない

テヌメールは直径約1.9キロの「単純クレーター」に分類される。

大規模な衝突クレーターでは中央部に隆起した山が形成されることがあるが、テヌメールは中央隆起を持たない、椀状の小型クレーターである。

リムの高さは資料によって約100~110メートルとされる。

ここで衛星画像からは気づきにくい事実がある。

現在見えているクレーターの床面は、形成直後の本来の底ではない。

地球物理探査や後の地質研究によると、クレーター内部には衝突後にたまった未固結堆積物が厚く存在し、その厚さはおよそ200~300メートルと推定されている。

斜め上空から見たテヌメール・クレーターの円形リムと内壁と平坦な床面
斜め上空から見たテヌメール・クレーター。円形のリムと急な内壁、その内側を埋める平坦な床面の違いが分かる。
写真:Tenoumer Krater/作者:Michael Dennig(ATLAS4x4)/Public Domain(PD-self)

つまり、衛星画像で見える平坦な床のさらに下に、本来のクレーター底が埋もれている。

形成直後のクレーターは、現在の見かけの床面より深かった。その後、長い時間をかけて堆積物が内部を埋めていった。

外から見ると輪郭は鮮明なのに、内部では元の地形のかなりの部分が厚い堆積物の下に隠されている。

テヌメールの奇妙さは、円形の輪郭だけではなく、「保存されている部分」と「埋もれてしまった部分」が同時に存在することにもある。

クレーターの年代は「約2万年前」ではなかった

テヌメールには、もう一つ注意すべき点がある。

それが形成年代だ。

古い資料や現在も残る一般向け解説の一部では、テヌメールは約1万~3万年前に形成されたと紹介されている。

この数字の背景には、2003年に発表されたフィッショントラック法による年代測定がある。そこでは約2万1400年前という値が報告された。

米国航空宇宙局や欧州宇宙機関の一般向けページにも、これに近い年代が掲載されている。

しかし、その後の研究で年代は大きく見直された。

2016年、衝突融解岩を使ったアルゴン40/アルゴン39年代測定によって、形成時期は157万±14万年前と求められた。

この研究の著者らは、この値をテヌメール衝突イベントの「現時点で最良の推定値」と評価している。

現在のインパクト・アース・データベースも、この約157万年前という年代を採用している。

一方、1970年には約250万±50万年前というさらに古い年代も報告されていた。2016年の研究では、この古い値に対して、試料中にわずかな継承アルゴンが存在することが示されている。

つまりテヌメールでは、同じクレーターについて「約2万年前」「約250万年前」「約157万年前」という大きく異なる年代が歴史的に報告されてきた。

現在の記事で中心に置くべき値は、2016年の約157万年前である。

衛星画像はほとんど同じ姿を見せ続けるが、その地形を「いつできたもの」と読むかは、研究の進展によって大きく変わった。

衝突地点は、もともと非常に古い岩盤だった

テヌメールのもう一つの特徴は、衝突した場所そのものが非常に古い地質を持つことだ。

クレーターはレギバット楯状地(Reguibat Shield)と呼ばれる古い大陸地殻の上に形成されている。

周辺の基盤岩は主に先カンブリア時代の花崗岩や片麻岩からなり、角閃岩、雲母片岩、超塩基性岩なども含まれる。衝突時には、その上をジュラ紀のチャート質石灰岩が覆っていたと考えられている。

地球外天体が衝突すると、その瞬間に複数種類の岩石が強く圧縮され、一部は溶融した。

2016年の研究では、テヌメールの衝突融解岩が一様な液体として完全に混ざったのではなく、異なる種類の対象岩が不完全に混合した状態で急冷したことが示されている。

これは、小規模な衝突クレーター内部で、短時間のうちに何が起きるのかを知る手掛かりになる。

衛星画像ではただ一つの円にしか見えない地形の中に、衝突時の圧力、温度、岩石の溶融、混合、冷却という一連の出来事が保存されているのである。

「一直線に並ぶクレーター群」ではない

モーリタニアには、テヌメールのほかにも円形の衝突構造が存在する。

そのため過去には、複数のクレーターがほぼ同じ方向に並んでいることから、一つの天体が分裂し、連続して地表へ衝突したのではないかという考えも検討された。

しかし、年代測定によってテヌメールと他の主要な衝突構造を同じ衝突イベントとみなす説は支持されていない。

たとえばアウエルル(Aouelloul)衝突クレーターとは形成年代が一致しない。2016年研究も、両者の同期的な形成を退けている。

見た目や地理的な配置が似ていても、それだけで同じ事件の痕跡とは限らない。

ここでも、衛星画像から得られる印象と、岩石が記録している地質学的事実は一致しないのである。

衛星からは「円」、地上の岩石からは「衝突の瞬間」が見える

テヌメール・クレーターの面白さは、その形がきれいなことだけではない。

衛星画像では、サハラの岩石平原に突然現れる約1.9キロの円として見える。

しかし地質学的に見ると、その円の中には複数の物語が重なっている。

最初は火山の爆発跡だと思われた。

その後、石英などに残る衝撃変成が見つかり、火山の「溶岩」だと思われた岩石は衝突融解岩へと解釈が変わった。

さらに、クレーター底は数百メートルの堆積物で埋められ、形成年代も研究の進展によって大きく修正された。

2025年に発表された西アフリカの衝突構造レビューでは、500万平方キロメートルを超える西アフリカの範囲で、確認済みの衝突構造はテヌメール、アウエルル、ボスムトゥイの3か所と整理されている。

上空から見れば、そこにあるのは一つの円にすぎない。

だがその円は、約157万年前の衝突、その後の侵食と埋積、そして数十年にわたる研究史までを同時に記録している。

衛星画像で目につく単純な形ほど、その正体を解き明かすには地上の岩石が必要になる。

テヌメールは、そのことをよく示すクレーターである。

テヌメール・クレーターの場所

テヌメール・クレーターは、モーリタニア北部のティリス・ゼムール地方に位置する。


参考資料・出典

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