カーネギー湖――砂漠に突然現れる、巨大な「幽霊の湖」
西オーストラリアの内陸部には、地図に「湖」と書かれていても、いつ行っても青い水面が広がっているとは限らない場所がある。
カーネギー湖(Lake Carnegie)も、そのひとつだ。
ふだんの衛星画像では、白っぽい塩の地面と泥の平原が細長く横たわっているだけに見える。ところが、大雨のあとに同じ場所を見ると、そこにはまったく別の景色が現れる。濃い青色の水域が何十キロにもわたって伸び、その南東側では細い水路が複雑に枝分かれする。
欧州宇宙機関(European Space Agency、ESA)は2025年、この姿を「幽霊の湖(Ghostly lake)」と題して紹介した。衛星画像によっては、湖全体が人の顔や仮面のようにも見える。

写真:Earth from Space: Ghostly lake — Lake Carnegie/作者:European Space Agency/Contains modified Copernicus Sentinel data 2024/ライセンス:CC BY-SA 3.0 IGO
だが、本当に面白いのは「顔に見える」ことそのものではない。
なぜ、砂漠の真ん中にこれほど巨大な湖が突然現れ、そして消えていくのか。
その答えをたどると、カーネギー湖は単なる塩湖ではなく、古い大規模河川系の痕跡の上に残された、巨大な一時湖であることが見えてくる。
湖なのに、ほとんど水がない
カーネギー湖は、西オーストラリア州(Western Australia)の内陸部、ウィルナ(Wiluna)の東およそ210キロに位置する。
西オーストラリア州生物多様性・保全・観光局(Department of Biodiversity, Conservation and Attractions)の調査では、湖の長さは約120キロ、最大幅は約20キロとされる。地図上で見れば、かなり大きな湖だ。
しかし、ここで「湖」という言葉から普通の水面を想像すると、カーネギー湖の実像を見誤る。
この湖は、恒常的に水をたたえているわけではない。
乾燥している時期には、大部分が泥地や塩性の低地となり、水がほとんどない状態でも巨大な湖盆そのものは残り続ける。
つまりカーネギー湖とは、常に水のある湖というより、
「大雨が降ったとき、乾いていた巨大な湖盆に水が戻る場所」
と考えたほうが分かりやすい。
地下に眠るのは、古い河川の記憶
なぜ、こんな場所に長さ120キロもの巨大なくぼ地があるのか。
カーネギー湖の地形は、現在の気候よりもはるか昔の水の流れと深く関係している。
州政府の調査資料によると、湖は古い大規模な河川系の沖積谷がほぼ堆積物で埋められた場所に形成された。かつて水が流れていた谷が長い時間をかけて埋まり、その低地が現在の湖盆として残っている。
湖底を構成するのは、粘土、シルト、砂、塩類、石膏などだ。
湖面や湖岸には、円形や三日月形の島や隆起地も点在する。その一部は風によって運ばれた石膏や石英砂からできている。
宇宙から見ると奇妙な模様に見えるが、その線や斑点の多くは、長い地質学的時間の中で河川、湖、風、蒸発が関わって作られてきた地形なのである。
ただし、古い水系が最終的にどの方向へ流れていたかについては、研究者の見解が完全に一致しているわけではない。
2019年の州政府資料では、カーネギー湖からウェルズ湖(Lake Wells)を経て北のディサポイントメント湖(Lake Disappointment)方面へつながった古い排水系が説明されている。一方、地形学者J・S・ベアード(J. S. Beard)は2002年の研究で、この解釈を再検討し、カーネギー湖からディサポイントメント湖への流出路は存在せず、カーネギー湖とウェルズ湖の水系はもともと南へ流れていたと論じた。
「ここが古い大規模河川系の一部だった」という点は高い確度で扱えるが、その古水系全体の復元には解釈の違いが残っている。
雨が降ると、眠っていた湖が動き出す
カーネギー湖に水を運ぶのは、恒常的な大河川ではない。
周囲には多くのクリークがあり、大雨のときにそこから水が流れ込む。
西、南、北、東の各方向から流入するクリークがあり、湖盆の低い場所へ水が集まる。そのため、雨の降り方や流域のどこに降水が集中したかによって、湖のどこまで水が広がるかも変化する。
州政府報告では、流入直後の湖水はおそらく淡水で、その後、湖底の塩の地殻が溶け、蒸発が進むにつれて塩分が高くなると考えられている。
そして水が失われれば、また塩と泥の地表が現れる。
この「出現」と「消失」は、数十年に一度しか起きない現象ではない。
ランドサット(Landsat)衛星の画像を使った1988年から2019年までの31年間の解析では、湖の中央部が面積の50%以上まで満たされた事例が19回確認された。中央部で25%を超える浸水状態が100日以上続いた事例も14回あった。
ただし、その規模と継続期間は年によって大きく違う。
2011年3月から2012年2月にかけては、中央部で25%を超える浸水が336日続いた。2017年1月から2018年4月の事例は432日に及んだが、途中の2017年10月に一時だけ25%を下回っている。
カーネギー湖は、乾燥したまま止まっている地形ではない。
降雨と流入によって、湖盆のどこまで水が戻るかを繰り返し変える巨大な一時湖なのである。
2020年、一日で270ミリ以上の雨
カーネギー湖がどれほど極端な降雨の影響を受けるのかを示す象徴的な例が、2020年1月に起きた。
オーストラリア気象局(Bureau of Meteorology)の公式統計では、カーネギー観測点で2020年1月10日の日降水量として270.0ミリが記録されている。これは、それまでの同地点の日降水量記録127.0ミリを大きく上回った。
さらに、米国気象学会(American Meteorological Society)の年次報告『State of the Climate in 2020』では、270ミリを記録したところで雨量計があふれたため、実際の降水量は少なくとも270ミリだったと報告されている。
原因となったのは、熱帯低気圧ブレイク(Tropical Cyclone Blake)の残骸が内陸部へ運んだ大量の水蒸気だった。
乾燥した内陸部で、一日に少なくとも27センチもの雨が観測されたことになる。
その後、アメリカ航空宇宙局(National Aeronautics and Space Administration、NASA)は、同年3月26日にランドサット8が撮影した、部分的に水が戻ったカーネギー湖の画像を紹介した。

写真:Filling up Lake Carnegie/画像:Lauren Dauphin, NASA Earth Observatory/Landsat data: U.S. Geological Survey/Public Domain(NASA)/NASA Media Usage Guidelines
「湖が満ちる」という現象だけを見ると静かに思えるが、その背景にあるのは、乾燥地の水環境を大きく変えるほど極端な降雨である。
面積5,700平方キロという数字の罠
カーネギー湖を紹介する資料では、「満水時の面積は約5,700平方キロ」と説明されることがある。
アメリカ航空宇宙局や欧州宇宙機関も、この数字を満水時の概数として紹介している。
しかし、この数字をそのまま「カーネギー湖の固定された面積」と考えると問題がある。
オーストラリア重要湿地ディレクトリ(A Directory of Important Wetlands in Australia)では、カーネギー湖水系(Lake Carnegie System)として登録される範囲は153,100ヘクタール、つまり約1,531平方キロである。
さらに2019年の州政府調査報告では、土地保有・先住権区域の説明の中で「カーネギー湖」とされた範囲が約244,737ヘクタール、約2,447平方キロと記されている。
ただし、この三つの数字をそのまま「湖面積の異なる推定値」として比較してはいけない。
約5,700平方キロは満水時の湖の規模として宇宙機関が示す概数、約1,531平方キロは重要湿地ディレクトリに登録された湿地系の範囲、約2,447平方キロは2019年資料で土地保有区分の説明に使われた範囲であり、対象も目的も異なる数字だからだ。
カーネギー湖のように水域が大きく変動する場所では、「何の範囲を測った面積なのか」を確認しないと、同じ数字のようには比較できない。
なぜ衛星画像では、異様なほど青く見えるのか
カーネギー湖を検索すると、深い青や黒に近い水域がくっきり浮かび上がった画像が見つかる。
特に2024年5月4日にセンチネル2(Sentinel-2)が撮影した画像では、湖へ入った水の分布が非常に鮮明に表現されている。
ただし、ここにも注意が必要だ。
あの青は、肉眼で見た湖の色そのものではない。
衛星観測では、人間の目に見える可視光だけでなく、近赤外や短波赤外といった波長も使われる。複数の波長を別々の色に割り当てることで、水、植生、裸地などの違いを強調できる。
欧州宇宙機関が公開した疑似カラー画像では、水が深い青色に強調されている。
つまり、画像の「色」は観測データを読み取りやすくするために処理されたものだ。
しかし、だからといって奇妙な形まで人工的に作られているわけではない。
南東部に見える、毛細血管のように細く枝分かれした模様は、実際に存在する低湿地と水路が複雑につながった地形に対応している。州政府資料でも、湖の南東端は途切れた湿地と水路が網状に連なる区域として記載されている。
疑似カラーは、存在しない地形を作るのではなく、肉眼では区別しにくい水域や地表の違いを見えやすくしているのである。

写真:Lake Carnegie, Western Australia/Credit: NASA/GSFC/USGS EROS Data Center/Public Domain(NASA)/NASA Media Usage Guidelines
「幽霊の顔」は偶然だが、地形は本物
欧州宇宙機関が「幽霊の湖」と題して紹介した画像では、カーネギー湖全体が人の顔、あるいは仮面のようにも見える。
これは、いわゆるパレイドリア(pareidolia)――無関係な模様の中に顔などの意味ある形を見つける知覚現象――として説明できる見え方だ。
湖が「顔になるように形成された」わけではない。
だが、その顔を作っている輪郭は、デジタル加工によって架空に描き加えられたものでもない。
長さ約120キロの湖盆、泥地、塩性地表、島、クリーク、南東部の網状水路。
それら実在する地形に特定の時期だけ水が入り、さらに衛星画像の波長処理によって境界が強調された結果、人間の目には一つの巨大な像として見えてくる。
つまり「幽霊の顔」は偶然だが、その材料になっている地形は本物なのである。
水が戻ると、鳥も戻る
カーネギー湖の変化は、見た目だけの話ではない。
水が入ると、生態系としての機能も変わる。
カーネギー湖水系は、オーストラリア政府の重要湿地ディレクトリに掲載されている。
1999年8月の調査では、1万羽を超える水鳥が確認された。そこには約6,500羽のハイイロコガモ、467羽のコクチョウが含まれ、コクチョウでは114のひなを伴う群れも記録された。
1980年の航空調査では、約1,000組のコクチョウの繁殖ペアに加え、多数の水鳥が記録されている。
乾いているときには広大な塩性低地に見える場所が、増水すると水鳥の重要な生息・繁殖の場へ変わる。
衛星画像上で「青い部分が増えた」という変化は、生き物にとって利用できる水域が広がったことでもある。
カーネギー湖は、見た目が変わるだけでなく、水の有無によって生態系としての役割まで大きく変化する。
この土地は、単なる「奇景」ではない
カーネギー湖を「宇宙から見た奇妙な湖」として紹介するだけでは、もう一つ大切な側面が抜け落ちる。
この地域は、マルトゥ(Martu)の人びとにとって文化的に極めて重要な土地でもある。
州政府資料では、カーネギー湖がアボリジナル文化遺産として登録され、文化的な重要性とアクセス上の制約を伴う場所であることが示されている。こうした情報には公開・利用上の文化的制限もあるため、観光向けの「神秘的な伝説」として単純化して扱うべきではない。
現在は、タルカ・マトゥワ・ピアルク・アボリジナル・コーポレーション(Tarlka Matuwa Piarku Aboriginal Corporation)と州の保全当局が、周辺の保護地域の共同管理に関わっている。
2023年には、カーネギー湖自然保護区(Lake Carnegie Nature Reserve)が設置された。現在の同法人の案内では、同保護区はクラスA自然保護区(Class A Nature Reserve)として共同管理の対象になっている。
衛星画像で見るカーネギー湖は、巨大で人の痕跡が見えにくい「空白地帯」のように映る。
だが、実際にはマルトゥの人びとと深い文化的関係を持ち、現在も保全と管理が続けられている土地である。
衛星画像が見せるのは、「湖」ではなく時間だった
カーネギー湖の不思議さは、一枚の衛星写真だけでは十分に分からない。
乾いた時期には、白や茶色の平原。
大雨のあとには、水が広がる巨大な湖盆。
さらに時間がたつと、水は縮小し、塩と泥の地表が再び現れる。
そこにあるのは、固定された一つの景色ではない。
同じ場所が、降雨、流入、蒸発、塩分、地形によって何度も別の姿に変わる。
だからこそカーネギー湖は、衛星画像で見る価値がある。
宇宙から見ることで、約120キロに及ぶ古水系の痕跡と、そこへ一時的に戻ってくる水の全体像が一つにつながる。
「幽霊の顔」のように見える衛星画像は、奇妙な偶然にすぎない。
しかし、その顔が浮かび上がるとき、普段は乾いている古い水系の輪郭もまた、水によって鮮明になる。
カーネギー湖とは、水のある時期と水のない時期、その両方を見て初めて姿が分かる湖なのである。
参考資料・出典
- Western Australia Department of Biodiversity, Conservation and Attractions
Trip Report: DBCA Lake Carnegie - Beard, J. S. (2002)
Palaeogeography and drainage evolution in the Gibson and Great Victoria Deserts, Western Australia - NASA Scientific Visualization Studio
The Ephemeral Lake Carnegie - NASA Earth Observatory
Filling Up Lake Carnegie - European Space Agency
Lake Carnegie, Australia - European Space Agency
Earth from Space: Ghostly lake - Australian Government, Department of Climate Change, Energy, the Environment and Water
A Directory of Important Wetlands in Australia - Australian Bureau of Meteorology
Western Australia in January 2020 - Australian Bureau of Meteorology
Western Australia in summer 2019–20 - American Meteorological Society
State of the Climate in 2020, Chapter 4: The Tropics - Government of Western Australia
WA’s new national park and nature reserve bigger than Bali - Tarlka Matuwa Piarku Aboriginal Corporation
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