
Photo: DeeFabian / Wikimedia Commons, CC BY-SA 3.0
アメリカ・カリフォルニア州、シエラネバダ山脈の東側に広がる高地。乾いた土地には古い木造家屋や教会、鉱山施設がまとまって残り、建物によっては窓越しに家具や生活用品まで見える。しかし、かつてここで暮らしていた住民たちの日常は、もう存在しない。
ここはボディ。19世紀後半、金と銀を求める人々が押し寄せ、数千人が暮らす鉱山都市へ膨れ上がった町である。これほど町の形が残っているのなら、なぜ人だけがいなくなったのだろう。金が突然なくなったのか。それとも、町を捨てなければならない決定的な出来事があったのか。
現在の静かな景色だけを見ていると、ボディには「ある日を境に時間が止まった町」という印象がつきまとう。だが、その歴史をたどると、実際の終わり方はもっと長く、複雑だったことが見えてくる。
人が消えたのに、町だけが残っている
現在のボディには100棟を超える歴史的建造物が残っている。家屋だけではない。教会や商業建築、鉱山に関係する施設もあり、建物の内部には家具や商品などが残された場所もある。
町の周囲まで視野を広げれば、さらに印象は変わる。高地砂漠には坑道や竪坑、鉱石を処理した施設の跡、古い道路、尾鉱池などが点在している。ボディは単なる「古い家が並ぶ廃村」ではなく、採掘から生活までを含んだ鉱山都市の景観が残る場所だ。

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それだけに、人のいない現在との落差は大きい。ボディが最初から小さな集落だったのなら、この静けさも不思議ではない。しかし19世紀後半のボディは、現在の建物群からは想像しにくいほど多くの人間を引き寄せていた。
ゴールドラッシュが生んだ数千人の鉱山都市
始まりは1859年だった。William S. BodeyとE. S. Taylorがこの地域で砂金を発見する。Bodeyはその後、冬の物資調達中に雪嵐で死亡したが、1860年に組織された鉱区には彼の名が残り、それが町の名前になった。
ただし、金が発見された直後から巨大都市になったわけではない。大きな転機が来たのは1870年代半ばである。豊かな金・銀鉱床が見つかると、人と資本が急速に流れ込み、町は一気に膨張した。
1870年代末には住宅、学校、銀行、ホテル、店舗、教会、新聞社、消防組織などを備えた都市へ成長していた。最盛期の人口は約8,000~10,000人とも推計されているが、当時の人口をめぐる数字は資料によって一致していない。California State ParksのNational Historic Landmarks解説では1880年国勢調査に5,275人が記録されたとしている一方、同州立公園のFAQには8,000人との記載もある。少なくとも、現在の無人の通りからは想像しにくい数千人規模の都市だったことは確かである。
住民像も、西部劇に登場する白人の鉱夫だけではない。1880年の住民にはアメリカ各地だけでなく多数の国の出身者が含まれ、中国系住民も数百人規模のコミュニティを形成していた。鉱山だけでなく、食事、洗濯、薪や木炭の供給、商売など多くの仕事が、人々の生活を支えていた。
採掘する人だけでは都市は成り立たない。労働者、その家族、商人、職人などが集まり、一つの生活圏ができあがっていた。それほどの町を、何が廃墟へ変えたのだろうか。
ボディは一夜で捨てられた町ではなかった
廃墟になった現在の姿から過去を想像すると、「金が尽きた瞬間、住民が一斉に去った」という筋書きは分かりやすい。ところが実際には、ボディの衰退は最盛期とほとんど背中合わせに始まっていた。
1879年ごろを境に、新たな鉱山へ移る人々が現れ、短期間で膨れ上がった人口は減少へ向かう。1886年には約1,500人まで減っていた。それでもボディは消えず、残った鉱山と住民によって町としての時間は続いていく。
1890年代には、シアン化法による低品位鉱石や尾鉱の再処理、電力利用などによって採鉱が一時的に持ち直した時期もあった。しかし、それによって最盛期の人口が戻ったわけではない。大都市から小さな鉱山町へと姿を変えながら、ボディは長い縮小の途中にあった。
だから、ボディの歴史には「繁栄」と「放棄」を一本の線で分けられる日付がない。大きくなりすぎた町から少しずつ人が抜け、規模を縮めながら生き延びていく。その途中で、町そのものを物理的に削る出来事まで起きた。
二度の大火と、最後まで続いた採鉱
1892年7月、大火がボディのメインストリートの大部分を焼いた。
それでも町は終わらなかった。焼失後には規模を縮小した商業地区が形成され、生活と採鉱は続いた。最盛期と同じ姿には戻らなくても、ボディにはまだ町としての時間が残されていたのである。
その40年後の1932年、再び火災が起こり、中心部の一部が失われた。現在のボディに建物がまばらに残っているのは、人が去った後に自然に崩れただけではない。人口減少の途中で二度の大火を経験し、かつて密集していた市街地そのものが何度も削られた結果でもある。
それでも採鉱活動は続き、大きな区切りとなったのは1942年だった。第二次世界大戦中、War Production Boardによって金鉱山の操業が停止され、ボディでも大規模な採鉱が終わる。学校や郵便局も閉鎖され、町としての機能はほぼ失われたが、その後も少数のcaretakerが暮らしながら土地や建物を守り、1962年に州立歴史公園となるまでボディから人が完全にいなくなったわけではない。
1859年の金発見から数えれば、そこまでに80年以上が過ぎていた。ボディは一度の災害で消えた町でも、金がなくなった一日に全員が立ち去った町でもない。人口流出、鉱業の浮き沈み、二度の火災、そして採鉱停止が何十年も重なり、生活都市としての役割が少しずつ失われていった。

だが、衰退の過程が分かると、今度は別の疑問が浮かぶ。そこまで長く縮小した木造の町が、なぜ21世紀の現在までこれほど形をとどめているのだろう。
廃墟を「廃墟のまま」残すという保存
ボディは1961年にNational Historic Landmarkに指定され、1962年にはカリフォルニア州立歴史公園となった。ここから、町の歴史には「衰退」とは別の時間が加わる。
保存と聞くと、傷んだ建物を修復し、失われた部分を補い、かつての姿へ復元することを思い浮かべるかもしれない。ボディで採用されたのは、それとは異なる「arrested decay」と呼ばれる考え方だった。
建物を新品のように作り直すのではなく、必要な修理だけを行う。California State Parksが説明する具体例には、屋根の補修や葺き直し、壊れた窓の修理、必要な建物の安定化などがある。一方で、必要以上に復元せず、州が取得した1962年当時の状態をできるだけ維持する。室内や屋外に残された物も、その景観の一部として扱われている。

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そのため現在のボディには、往時の街並みを完全に再現した観光施設とは違う不均一さがある。建物が残る場所もあれば、火災などで失われて空間になった場所もあり、町の外には鉱山施設や道路跡が続く。
つまり、何も手を加えていないから残っているのではない。「直しすぎないための手入れ」を続けることで、廃墟になった状態そのものが保存されている。

時間が止まったように見える町の正体
現在のボディは州立歴史公園として公開されている。標高約2,550メートルの高地にあるため、とくに冬季は道路や積雪の条件が大きく変わる。町の歴史的景観を保つ方針から、食事やガソリンを提供する一般的な商業施設も置かれていない。
また、地面に落ちている物を含め、歴史的遺物や石、植物などを持ち出すことは禁止されている。建物だけではなく、そこに残された細かな物までが、ボディの歴史を伝える一部だからだ。
最初にボディを見ると、人だけが突然消え、町がその瞬間のまま残ったように感じるかもしれない。しかし歴史をたどったあとでは、同じ景色の意味が変わる。
そこに残っているのは、ある一日に止められた時間ではない。金を求める人々が集まった1850年代から、数千人規模の都市となった繁栄期、長い人口減少、二度の大火、1942年の採鉱停止、そして1960年代から現在まで続く保存活動まで、異なる時代が折り重なった景観である。
ボディが奇妙なのは、町が消えたことだけではない。普通なら崩れ、失われていくはずだった「町が消えていく途中の姿」が、今も保存され続けていることにある。
参考資料・出典
National Park Service — Bodie Historic District
https://www.nps.gov/places/bodie-historic-district.htm
California State Parks — Bodie State Historic Park
https://www.parks.ca.gov/?page_id=509
California State Parks — Bodie State Historic Park Cultural Landscape
https://www.parks.ca.gov/?page_id=23524
California State Parks — National Historic Landmarks in California State Parks
https://www.parks.ca.gov/?page_id=29394
California State Parks — Bodie State Historic Park Historical Brochure
https://www.parks.ca.gov/pages/509/files/BodieSHPFinalWebLayout2016.pdf
California State Parks — Bodie Rules & Regulations
https://www.parks.ca.gov/?page_id=31352
California State Parks — Planning Your Trip
https://www.parks.ca.gov/?page_id=31546
California State Parks — Commonly Asked Questions
https://www.parks.ca.gov/?page_id=31549





