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ナスカ・パルパ地上絵群|衛星画像とAI研究で見える砂漠の文化景観

ナスカ・パルパの砂漠に広がる地上絵群と、衛星画像やAI解析による調査イメージを組み合わせた文化景観 衛星画像で見る奇景

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ナスカの砂漠に直線や幾何学模様が広がるTerra衛星ASTER画像
Terra衛星のASTERが2000年12月22日に取得したナスカ周辺。可視光と赤外バンドを組み合わせたsimulated true-color画像。
Image: NASA/GSFC/METI/ERSDAC/JAROS and U.S./Japan ASTER Science Team / NASA Science, NASA Images and Media Usage Guidelines

上空からペルー南部の砂漠を眺めると、地表に異様な線が現れる。何本もの直線が何もない台地を横切り、その間には台形や三角形、渦巻きが重なっている。さらに視線を寄せれば、ハチドリ、サル、クモなど、生き物の輪郭まで砂漠に刻まれている。

不思議なのは、その大きさだ。長い線は数キロメートルにも及び、地上に立てば全体像をつかみにくい。これほど巨大な図形を、古代の人々はなぜ造ったのか。そして、地上から見渡せないものを誰に見せようとしたのか。

ナスカの地上絵をめぐっては、天文暦から宇宙人まで、さまざまな説明が語られてきた。ところが近年、研究者が高解像度の航空画像やAIを使って砂漠を調べ直すと、「空から見る巨大絵」というイメージだけでは説明できない地上絵が次々に姿を現した。衛星から始めた視線を地表まで下ろしていくと、この場所の見え方そのものが変わってくる。

砂漠に刻まれた、終わりの見えない線

ナスカとパルパの地上絵群は、ペルーの首都リマから南へ約400キロメートル、イカ県の乾燥した海岸砂漠に広がっている。1994年には「ナスカとパルパの地上絵」として世界遺産に登録され、登録範囲は約7万5358ヘクタールに及ぶ。

そこにあるのは、巨大な動物画だけではない。直線、三角形、台形、長方形、渦巻きのような幾何学模様があり、その間に鳥、サル、クモ、植物、人間に似た姿などが入り交じる。線同士が交差し、古い図形の上へ別の図形が重ねられている場所もある。

ナスカ砂漠に描かれたハチドリの地上絵を上空から見た写真
ナスカを代表する具象地上絵の一つ「ハチドリ」。
Photo: Diego Delso / Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0

衛星画像で特に目を引くのは、砂漠を横断する幾何学的な線の多さだろう。自然地形なら蛇行してもよさそうな地表を、細い直線が遠くまで突っ切っている。巨大な台形は、まるで現代の造成地か滑走路のようにも見える。

この異様な光景から、「古代人がどうやってこんなものを造ったのか」という疑問が生まれる。しかし、制作方法そのものに未知の技術があったわけではない。

造り方は、想像するほど不可思議ではない

ナスカ・パルパ一帯の地表には、長い年月の風化によって暗い色になった礫が広がっている。地上絵を造った人々はその礫を取り除き、下にある明るい地面を露出させた。暗い地表と明るい下層の色の差によって、線や図形が浮かび上がる。

暗い表面礫を左右へ移し、下の明るい地面を露出させてナスカ・パルパ地上絵を作る方法の模式図
表面の暗い礫を移動し、下の明るい地面との色差によって線や図形を作る方法を示した模式図。縮尺不同。

つまり、地上絵を刻む作業そのものに、空を飛ぶ技術は必要ない。もちろん数百メートル、場合によっては数キロメートル続く形を整えるには計画と測量がいる。しかし、物理的な制作方法は、人間が地上で行える作業として説明できる。

この方法が現在まで残った背景には、ナスカの環境もある。雨がきわめて少ないため、地表を大きく洗い流す作用が弱い。いったん礫を取り除いて作られた線が、非常に長い時間にわたって保存されやすかった。

ただし、これらを「ナスカ人がある時、一斉に造った巨大プロジェクト」と考えると実像から離れてしまう。UNESCOは主要な地上絵をおおむね紀元前500年から紀元500年のものとしているが、パルパでの考古学調査では、パラカス文化の紀元前500年頃からナスカ文化末期の紀元650年頃まで地上絵制作が続いたことを示す証拠も得られている。

地上絵が互いに重なっていることも、その長い時間を物語る。砂漠に一枚の巨大な設計図が描かれたのではなく、異なる世代が同じ土地へ新しい線や図形を付け加えていったのである。

では、何世代もの人々がそこまでして線を引き続けたのはなぜだったのだろう。

「巨大な天文暦」という答えは、なぜ魅力的だったのか

20世紀にナスカの地上絵が本格的に研究されるようになると、有名になった説明の一つが天文学との関係だった。ポール・コソックや、長年にわたって地上絵の調査と保存に取り組んだマリア・ライヘは、線の方向と太陽などの天体現象との関係に注目した。巨大な地上絵を天文暦のようなものと見る考え方は、ナスカを世界的に知られる存在にした。

確かに、天文学的な意味を持つ線が一部に存在した可能性まで否定する必要はない。しかし、後の統計的な研究では、膨大な線の大多数を太陽や星の方向だけで説明することは難しいとされた。地上絵が異なる時代に、異なる理由で造られた可能性も考慮されるようになる。

見た目の不可解さは、さらに大胆な説も生んだ。空からでなければ全体を見られないのだから、宇宙から来た存在に向けて描いたのではないかという、いわゆる古代宇宙飛行士説である。

だが、「古代人には造れない」という前提そのものが成り立たない。制作技法は確認でき、地上絵は周辺の先史社会や遺跡、道、祭祀活動と結びついている。宇宙人を持ち出さなければ説明できない考古学的証拠があるわけではない。

問題は別のところにある。「天文暦だった」「宇宙から見るためだった」と一つの答えを地上絵群全体へ当てはめようとすると、説明からこぼれ落ちるものが多すぎるのだ。

そのことがよく分かるのが、ナスカの北にあるパルパである。

ナスカだけを見ていると見落とす「パルパ」

一般に「ナスカの地上絵」と聞いて思い浮かべるのは、平坦な砂漠に描かれたハチドリやサル、クモだろう。だがパルパ周辺へ目を向けると、地上絵の姿はもっと多様になる。

パルパ、グランデ、ビスカスなどの谷に沿った斜面や台地には、幾何学図形だけでなく、人間を思わせる姿など数多くの地上絵が残っている。斜面に描かれたものは、巨大な平原上の図形とは見え方そのものが違う。場所によっては高い空まで上がらなくても、向かい側や低い位置から形を認識できる。

パルパの砂漠の斜面に並ぶ人物型地上絵「パラカス・ファミリー」
パルパの斜面に描かれた人物型地上絵「パラカス・ファミリー」。
Photo: PsamatheM / Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0

考古学調査は、時間の幅も広げた。パルパでは地上絵制作がパラカス文化期から始まり、その後のナスカ文化まで続いたことを示す証拠が確認されている。地上絵に伴う石造構造や遺物を発掘した研究では、この景観が祭礼や宗教的な活動の場として使われ、水や豊穣に関係する儀礼も行われた可能性が論じられている。

ここで重要なのは、「地上絵の正しい用途が水の祭祀だった」と答えを置き換えることではない。パルパの証拠が示すのは、砂漠の線が眺めるだけの図形ではなく、人々が実際に活動する場所の一部だったということだ。

そして近年、その見方をさらに大きく変える地上絵が大量に見つかった。

AIが見つけた303点が、「誰に見せたのか」を変えた

2024年、山形大学などの研究チームは、PNASにナスカ・パンパの大規模調査結果を発表した。AIを利用して高解像度航空画像から有望な場所を絞り込み、研究者が現地を歩いて確認した結果、新たに303点の具象的な地上絵が確認された。

重要なのは数だけではない。

それまで有名だったハチドリやサルのような巨大な図像は、研究では「line-type」と呼ばれる。長い一本の線を中心に輪郭を構成する大型の地上絵で、野生動物を描いたものが多い。

一方、AIを利用した調査で多数確認されたのは、それより小さな「relief-type」の地上絵だった。地表の礫を面として取り除くことで、人型や頭部、家畜化された動物などを表したものが多い。長年研究されてきたナスカでこれほど多く見逃されていたのは、小さく、約2000年の風化によって地上からも画像からも判別しにくくなっていたからである。

そして、この二つのタイプは存在する場所も違っていた。

小型のrelief-typeは、砂漠を曲がりながら横切る古い道の近くに多い。研究チームは、道を移動する個人や小集団が目にする場所で使われた可能性を示している。それに対して大型のline-typeは、直線や台形からなる大規模な地上絵ネットワークと強く関係し、共同体による祭祀的な活動と結びついていた可能性が高いと解釈された。

大型line-type地上絵と小型relief-type地上絵について、直線・台形ネットワークと古道との分布傾向の違いを比較した模式図
大型line-typeと小型relief-typeの分布傾向を比較した模式図。用途については研究上の解釈で、実際の配置・縮尺ではない。

ここで、「地上からは見えないのに、誰に見せるために描いたのか」という最初の疑問が変わる。

少なくとも地上絵群のすべてが、遠い上空の観客へ向けられていたわけではなさそうなのだ。小さな地上絵の一部は、むしろ砂漠の道を歩いていた人間の視線と近いところにあった。

衛星画像から見ると一つの奇妙な巨大遺跡だったものが、地表へ近づくにつれ、異なる人々が異なる場面で使った痕跡へと分かれていく。

一つの目的では説明できない、砂漠の文化景観

では、「ナスカ・パルパの地上絵は何のために造られたのか」と聞かれたとき、現在の研究は何と答えるのだろう。

おそらく最も重要なのは、最初から一つの答えを想定しないことである。

大型の図像や直線・台形のネットワークには、多人数が関わる祭祀活動との結びつきを示す研究がある。パルパでは地上絵に伴う構造物から、祭礼や宗教活動が行われたとする解釈が出ている。小型地上絵については、古道との位置関係から、そこを移動する人々へ情報や意味を伝える役割を持っていた可能性が指摘されている。

天文学的な意味が一部に含まれていた可能性も、それらと必ずしも矛盾しない。

問題だったのは、「全部が天文暦」「全部が水の儀礼」「全部が神に見せる絵」というように、長期間にわたって造られた膨大な地上絵を一つの目的へ押し込めようとすることだった。

パラカスからナスカへ時代が移り、人々の社会や祭祀が変化する中で、同じ砂漠にも新しい図形が加えられた。古い線を横切る新しい線があり、巨大な動物がある一方、その近くには歩行者の目線で認識できる小さな人物像がある。

そう考えると、ナスカ・パルパは一枚の巨大な「絵」というより、何世代にもわたる行為が積み重なった文化景観として見る方が実態に近い。

もちろん、それで個々の図像の意味が分かったわけではない。なぜ特定の動物を選んだのか。ある一本の線が具体的に何を示していたのか。特定の道を歩いた人が小さな人型を見て何を理解したのか。そこまでを復元できない例は多い。

「すべて未解明」なのではなく、分かったことが増えた結果、どこから先がまだ分からないのかも、以前よりはっきりしてきたのである。

有名すぎる遺跡で、今も新しい線が見つかる

ナスカの地上絵は20世紀前半から本格的に調査され、世界中に写真が知られてきた。それほど有名な場所で、21世紀になってから数百点単位の地上絵が追加確認されたことは意外に思える。

理由の一つは、見る方法の変化にある。

初期の研究では地上踏査や航空写真が大きな役割を果たした。その後は高解像度の衛星画像が利用され、さらに航空機やドローンから撮影した、より細かな地表画像を大量に解析できるようになった。

大型の直線や巨大図像なら衛星画像でも見つけやすい。ところが風化した小型のrelief-typeは、画像の中で岩や自然の凹凸に紛れてしまう。人間が629平方キロメートル規模の調査域を一枚ずつ目視するには限界がある。

そこでAIが使われた。AIが遺跡を自動的に「発見して確定した」わけではない。大量の画像から地上絵らしい候補を示し、その候補を研究者が選別し、実際に現地へ行って地表を確認した。その組み合わせによって、調査速度が大きく上がったのである。

これは「衛星画像で見る奇景」というナスカの有名な姿に、少し皮肉な事実を付け加える。

上空から見ることで世界的に有名になった遺跡なのに、上空から大きな形を見るだけでは、その全貌は分からなかったのだ。

2000年残った線は、人間には意外なほど弱い

ナスカの砂漠では、地表の礫を少し移動しただけの線が、驚くほど長い時間残ってきた。

その保存を助けたのが極端な乾燥である。雨が少なく、大量の植物が地面を覆うこともない。地表の変化が比較的遅いからこそ、先史時代に作られた色の差が現在まで残った。

しかし、それは地上絵が頑丈だという意味ではない。

UNESCOも、世界遺産区域を横切るパンアメリカン・ハイウェーの建設によって一部の線や図像が損傷したことを記録している。車両が地表を走ったり、土地を掘削したりすれば、2000年残った景観でも短時間で傷つく。

その問題は過去形ではない。2026年6月には、ナスカのチョウチージャ地区にある考古学保護区域で無許可の掘削や溝の開削が確認され、ペルー文化省と警察が作業を停止させた。翌7月にはソコス地区で、ごみや残土の撤去、環境回復、境界表示の改善などを進める保全事業が発表されている。

現在、地上絵は遊覧飛行や指定された展望地点などから見ることができる。観光客が自由に地上絵の上を歩いて鑑賞する遺跡ではない。巨大な景観を見せながら、その地表そのものを守ることが必要になっている。

もう一度、上空からナスカ・パルパの砂漠を眺めてみる。

最初は、不可解なほど長い直線と巨大な動物の輪郭が目に入る。誰が、何のために、地上から見渡せない図形を造ったのかという疑問が浮かぶ。

だが地表へ近づけば、その景観は一つの巨大な絵ではなくなる。パラカスからナスカへ続く長い時間があり、道を歩く人がいて、祭祀に集まる人々がいて、そのたびに新しい線や像が砂漠へ加えられた。

衛星からは静止した模様に見えるものが、考古学を通して見ると、人々が何世代にもわたって動き続けた痕跡に変わる。

ナスカ・パルパの奇妙さは、空からでなければ分からないことだけにあるのではない。空から見えていたものを地上の人間の側から見直したとき、同じ砂漠がまったく違う景観に見え始めることにある。

参考資料・出典

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